錚吾労働法

九一回 公務員と処分③
 公務員の意に反する不利益処分としての「懲戒処分」は、「分限処分」と並んで公務員制度の質的担保の「後陣」をなすものである。公務員制度の国民に対する質的担保の王道は、「勤務成績・勤務実績の適正・適格な評価」のみならず、「職務・職制の評価」や「厳格な定員管理」によって保持されるものである。これは、「前陣」たるものである。「職員の非違行為」は、「使用者としての国民・住民」に適時に明らかにされねばならない。「職員の非違行為」は、最悪の場合には、当の職員から職員たる地位を剥奪する「懲戒免職」によって対応されることとなる。
 公務員は、「国民全体の奉仕者である」とか「住民全体の奉仕者」であるとされる。公務員のかかる性格のゆえに、「公務員に対する基本的人権の制約」が語られることの是非は、別の機会に述べることとしたい。ここでは、職員に対する懲戒処分について述べる。懲戒処分は、最悪の場合には職員たる地位を奪うこととなる「奪権的処分」であるから、「法律の明示規定」を根拠としてなされねばならない。これを、「懲戒処分法定主義」という。この主義により、国公法および地公法の懲戒処分の定めが置かれている。
 懲戒処分は、法定の根拠に基づく法定の処分としてなされねばならない(「法定主義の原則」)。懲戒処分は、非違行為に相応する処分の選択がなされて行われるべきである(「相応の原則」)。些細なことを針小棒大に取り上げて、過剰な処分がなされてはならない(「過剰処分の禁止の原則」)。「相応の原則」は「比例の原則」とも言われているが、要は、非違行為に相応しい処分の選択ということである。これは、「的確処分選択の原則」といえばより分かりやすいものである。これらの諸原則は、法律に明記されてはいないが、「法の一般原則」たるべきものであるから、適用されねばならない(「相応の原則」は、元はと言えば、「天秤がつりあっている」という意味のドイツ語に由来する。それは、だから漢字で表現すれば、「均衡」ということになるであろう。「比例の原則」とか「相応の原則」とか、さらには「相当性の原則」というのは、誤訳だったのである)。
 懲戒処分は、国公法82条以下、地公法29条以下に定めに従ってなされるものである。懲戒処分の種類は、[免職」、「停職」、「減給」、「戒告」である。これ以外の懲戒処分は、することが出来ない。職員の問題行動を黙って放置しておくと懲戒処分されることになるやもしれないときに、その旨の「警告」をすることは出来ないか。この問題は、それほど簡単な問題ではない。処分権者は、「警告しても直らないから懲戒処分した」という理由付けをしたがるものである。行政法の世界には、「警告付き行政行為」なるものがある。しかし、ここでの懲戒処分に先立つ「警告」は、行政行為または処分としてなされるものではない。「警告」は、「処分の前置行為」として必要だという意見もある。懲戒処分の発出に至る一連の法定手続に正式なものとして警告を付加するのは、法改正を要するが、適切なことであろう。とはいえ、実際には、警告はされている。ただ、注意を要するのは、「過度なしつこい警告」は、「不法行為」と評価されることとなろう、と言うことである。そういうことにならない程度の「事実行為としての警告」は、禁止されているわけではない。
 「免職」は、民間における「懲戒解雇」に相当する。「免職」は、「職員としての地位」を奪い、「退職金」も不支給となる最も重い処分である。職員を「免職」するためには、「免職に相当(均衡)する違法性の高度な非違行為」が存在しなければならない。この意味において、「相当性(均衡性)を欠く免職処分」は、「違法な処分として取消を免れない」。取り消されてから「停職」にするなどは、してはならない違法処分として、無効である。免職に付される非違行為は、「庁舎の内部」でなされたか、「庁舎の外部」でなされたかを問わない。
 「分限休職」させられる場合として「刑事事件に関し起訴された場合」がある。任免権者は、「刑事事件に関し起訴された」職員を「分限休職」ではなく、「懲戒免職」にすることは出来るだろうか。刑事手続と懲戒手続は、それぞれ独立の手続であり、「分限休職」ではなく「懲戒免職」を選択することは可能である。では、「分限休職」としておいて、その間の任免権者による調査を踏まえて「懲戒免職」にすることは可能なのか。「分限休職」は、事件が裁判所に係属する間は裁職員としての地位を保有させるものであり、かつ係属終了と同時に「処分も当然終了」となるものである。従って、出来ないと応答することになる。刑事処分の結果(「禁固以上の刑に処せられたとき」)「当然失職」となることがあるが、それは、別論である。厚労省の「村木局長」のような例があったことをも、頭に入れておくべきである。
 「公務員倫理法」が、施行されている。「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」の範囲は、これによって拡張された。「飲酒運転」や「交通(人身)事故」で免職などの事例の続発は、この例である。こんな公務員は許しがたいという「世論」は、「公務員倫理」を理由とする懲戒処分に深刻な影響を押し及ぼす。特にマスコミ報道されるような「倫理非行」には、免職が選択されるか、「停職」プラス「依願免職」で決着させられることが多い。「倫理非行」または「倫理違犯」というやや漠とした根拠による懲戒処分であるから、可能な限り国公法、地公法の規定によって対処するのが、望ましい。
 「免職」以外の懲戒処分にかんしては、各自において、学習して下さい。