錚吾労働法

二〇六回 無期労働契約と有期労働契約①
 有期労働契約は非正規労働契約ともいわれ、無期労働契約は正規労働契約ともいわれている。有期労働契約は、今後の労働紛争の増加要因の最大のものだという認識をもって臨むべき労働契約である。有期労働契約であると無期労働契約であるとを問わず、その内容は、個々の労働者と使用者との間の合意によって形成されるものである。締結すべき労働契約の期間の定めは、「労働者の処遇に関する事項」であるから労働条件である。労働契約の期間が有期か無期かにより時間給、日給、週休、月給などの相違をもたらすことがあるから、それが有期か無期かは、労働契約当事者にとって重大な関心事となる。
 最近の労働契約法の改正に関わって、特に有期労働契約の期間、更新、更新の回数、通算期間などに労使当事者の関心が集まっている。しかし、労働契約法に結実した労働政策の是非などの議論もさることながら、長期の経済的な収縮の結果ともいわれてきた失業者の越冬問題、ブルーテント村問題、ワーキングプア層の発生、格差社会の定着などの諸問題は、グローバル化した経済社会における金融証券関係におけるスピードアップした資金運用とその電算化したプログラムのワンタッチの実行とも密接に関わっているのであるから、国内的な対策のみによって乗り切ることが出来るのかどうかをも含めて考えなければならないのである。
 先ずは、一般的な話から始めることとしよう。労働契約は、様々な期間設定が可能な契約である。労働期間は、重要な労働条件であり、当事者間の合意によって定まる。労働契約の期間が満了する後に、両当事者は、これまでと同じ期間の労働契約を自動的に更新するという形式によって締結することも、これまでとは短期または長期の新たな労働契約を締結することもできる。季節的な繁忙期にのみ労働者を雇用する(年末から正月にかけてのみ、あるいは祖先のお祭りをする盆の時期にのみ労働者を雇用する)事業者もある。就労自体が危険なために、比較的短期間の雇用でなければならず、更新も避けるべき仕事もある。
 最近は、期間の定めの無い労働契約を正規の労働契約、期間の定めのある労働契約を非正規の労働契約ということがあるが、労働契約において雇用期間の定めを置くかどうか、置くとしたら期間の長さをどのようにするべきか、期間を季節に合わせて設定するのかどうかなどは、契約当事者の合意によって決定されるべきことである。従って、もしも、非正規なる言語が社会的非難の対象となるのであれば、この表現の仕方は誤りである。一部のマスコミのこのような言語の用い方があるので、最初にその誤りを正しておきたい。
 使用者が雇用した労働者であれば、その契約期間の長短に関わりなく、正規の労働者である。A使用者が雇用した労働者でない、その他のB使用者が雇用した労働者が、A使用者の支配領域で働くときに、その労働者はA使用者にとって、非正規の労働者である。B使用者にとっては、その労働者は正規の労働者である。各労働者の雇用期間の定めは、それぞれの使用者との合意によって定まる。
 登録派遣による労働者は、派遣業者によって職業あっせんされて、派遣業者には雇用されず派遣先の使用者によって雇用されているのか、あっせんと同時に派遣業者に雇用の上派遣先に派遣されているに過ぎないのか、あるいは派遣業者にあっせんされる個人事業者として派遣先で労働する者であるのか、よく観察しなければならないのである。登録派遣労働者は、派遣元と派遣先との関係が曖昧であることが多く、派遣元と派遣先の非正規労働者として、社会的保護の埒外に置かれかねない。その派遣期間は、使用者が分明でないときには、契約期間の相手もまた分明でないという困った事態が生ずることになる。この点については、もっと後に詳しくのべることとする。
 民法は、かっては、有期の労働契約の最長期間を1年としていた。労働者が劣悪な条件で長期雇用されると、健康を失ってり、怪我をしたり、最悪の場合には命を失うことになりかねない。特に危険な業務に従事する契約を締結すれば、その危険を労働者が自ら引き受けたという理屈により、使用者は死亡などの労働災害に対する責任を認めようとしなかった。だから、工場事業所での危険から労働者を保護するために、労働契約の最長期間を1年としたのである。