錚吾労働法

二〇九回 無期労働契約と有期労働契約④
 優れた労働者は、我が労働力をもっと高く買ってくれる企業はないのかと、考えるているだろう。「企業共同体(カンパニー・コミュニティー)」論は、今や破産した考え方になってしまった。もっと高く自分を買ってくれる企業はどこにあるのか、どの企業が自分をスカウトしてくれるのかなどと考えて日暮しする労働者も、多分いるだろう。
 ホワイトカラー・エグゼンプションの適用を受けるかもしれない成果重視の働き方を選択したいむきには、転職願望も強くなるに違いない。誰もが認めるような有能な労働者は、そうそういるものではなかろう。企業育成プラス本人の才能と努力とがミックスした業界の能力者に年功賃金でもって処遇してきた仕方は、成果を適切に評価するシステムの開発を怠ってきたのである。
 多様な働き方の中には、労働の成果や期待されるべき成果に従って報酬を受け取る働き方も含まれるであろう。企業と労働者との成果に対する考え方と成果の評価に従った処遇に関するマッチングは、必ずしも容易なことではない。成果主義と残業の割増賃金の不支給とを画一的に設計すべきではない。高級な労働にはより高率な割増賃金の支給があってもよいからである。
 そこが契約の契約たる所以であって、ホワイトカラー・エグゼンプション規定が設けられても、それによらないことの合意は、少しもかまわないのである。しかし、かかる規定をわざわざ設けるからには、当該契約者の一方は「労働者」だという立法者的な自覚があるはずである。「労働者」というときには、伝統的に「保護されるべき者」という観点が付着してきた。この点を踏まえて言えば、成果主義と短時間労働プラス有期労働契約という組み合わせをも用意しておかねばならない。
 成果主義プラス残業代不払いの長時間労働というイメージでのみ語られるならば、それでもなお利点を得ることができる「労働者性」の希薄な労働世界を想念するべきかも知れない。労働者というよりも労務を供給する自営業者というイメージでもって語るのであれば、多少は理解が進むやもしれないであろう。成果主義賃金が、限りなく請負代金に近いと言う場合すら存在する。だから、成果主義なる表現が何を意味しているのかは、実質的に確定されるべきである。成果主義の賃金が、何十年か後に独立自営業者の請負代金に変貌してしまっていることをも想定しておかねばならないだろう。
 成果主義を採用するからといって、それが無期労働契約の労働条件であるのか、有期労働契約の労働条件であるのか、あるいは実質的に請負条件であるのかは、当事者の意思によるべきことである。文書による紛争の防止の心がけねばならない。
 当該の職場でどれくらいの間働くのか、どれくらいの間働く意思があるのかという問題は、労働してはいけない期間、労働する期間、労働から離れる期間(休業の場合、労働とは関係のない人生の期間)と無関係に存在しているわけではない。労働に関わる期間に関する法規定から説明することとしよう。
 1 民法雇用契約の規定は、雇用期間の定めのない場合とある場合とを区別し有期のの雇用契約に関しては一年を超えてはならないとしていた。現行法では、雇用契約の期間については次ように定められている(労働者派遣に係る派遣可能期間については、別途記述するので、ここでは扱わない)。
 ①5年を超える雇用契約民法626条)  
 ②当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続する雇用契約民法626条)
 ③商工業の見習い目的の10年を超える雇用契約民法626条)
 ④雇用期間の定めのない雇用契約民法627条)
 ⑤期間によって報酬を定める雇用契約民法627条)
 2 労基法の労働契約期間は、次のように定められている。
 ①期間の定めのない労働契約(労基法14条)
 ②事業の完了に必要な期間を定める労働契約(労基法14条)
 ③3年または5年を越えない期間の労働契約(労基法14条)
 労働契約の期間に関する民法労基法の定めは、雇用契約・労働契約の期間の長短または事業期間に応じた解約の仕方の相違に着眼して定められているものである。民法627条と労基法14条の定めは、期間の定めのない契約に関係するものである。条文を読めば分かることなので、精読をおすすめします。1の②については、当事者の一方が自分の介護のために当事者の他方の介護者と、あるいは、当事者の一方たる者が自分の老親の介護のために当事者の他方の会議者と自分または老親の死に至るまでの間の介護を目的とする雇用契約を締結する場合を考えれば、よくわかる話でしょう。終身の間継続する雇用契約とは、このような場合のことをいうのである。ただ、この種の雇用契約の増加は、家族の負担増や独居高齢者の増加に伴い、避けられないであろう。これに関しては、後により詳しく述べることとしたい。