2011-01-01から1年間の記事一覧

錚吾労働法

一七九回 黙示の意思表示と労働契約① 黙示の意思表示によって契約が締結される可能性は、否定されるものではない。しかし、誤解のないようにしなければならない。それは、沈黙と黙示は違うということである。ただ沈黙しているだけで、何の表示行為もない状態…

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一七八回 滋賀県事件(平成23年12月15日最高裁判決)② 最高裁は、一審の被告敗訴部分を破棄取消したうえ、労働委員会および収用委員会各委員の月額報酬の支払差し止めを求める訴えを却下するなどした。これにより、この種事件は、終息していくものと思われる…

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一七七回 滋賀県事件(平成23年12月15日最高裁判決)① 師走月の15日に、労働委員会に関わる重要な最高裁判決があった。滋賀県公金支出差止請求事件(以下滋賀県事件)である。本件は、滋賀県の住民(弁護士)が労働委員会や選挙管理委員会の非常勤の委員に対…

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一七六回 新国立劇場運営財団事件④ この事件の労委から最高裁までの判断について、やや詳しく追跡してきた。最高裁判決を客観的事実として観察すれば、最高裁は契約の形式にとらわれずに、オペラ歌手Gの労組法上の労働者性の判断に際してはGが財団に組織的…

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一七五回 新国立劇場運営財団事件③ 財団が労組からの団交要求を拒否したことは不当労働行為であるとし、団交を命令し、文書の交付を命令した都労委及び中労委の判断の可否について述べる。結論から言えば、団交命令は良いだろうが、団交命令を発するべきかど…

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一七四回 新国立劇場運営財団事件② この事件の主人公のオペラ歌手Gがいかなる技量を有するかが、問われているわけではない。ここで問題とされているのは、Gが労組法3条の労働者なのかどうかである。労組法3条に該当するかどうかを判断するに際して、どの…

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一七三回 新国立劇場運営財団事件① 本件は、オペラ歌手G(以下G)が加入している職能労働組合(日本音楽家ユニオン。以下労組)が、新国立劇場運営財団(以下財団)に対して財団がしたGの不合格と労組が申し入れた団交に応じなかったことが不利益取扱およ…

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一七二回 企業の変動と労働関係③法人格の否認ーその3− ここで取り扱う問題は、労働委員会は、法人格の否認の法理とどのように付き合ったら良いかという問題である。川岸工業事件が不当労働行為事件として争われていたとしたら、事件の処理の仕方としては、…

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一七一回 企業の変動と労働関係②法人格の否認ーその2− 法人格を否認することによって具体的な紛争を落着させることが出来る範囲はどこまでか。ここでは、法人格否認の法理の及ぶ範囲を考えてみたい。前回では、それを考えるための具体的な紛争事例を指摘し…

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一七〇回 企業の変動と労働関係①法人格の否認ーその1− 企業は、その行っている事業を継続・拡張・廃止することができ、事業を譲渡・合併・分割することもできる。これらは、営業の自由の枠組みの中に収まっていることである。会社は、資金繰りの悪化により…

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一六九回 ビクターサービスエンジニアリング(VSE )事件 本件(東京地判平成21・8・6)は、INAXメンテナンス事件によく似た先行事例であるから、解説しておこう。詳しくは、ちゃんと判例集を読んでちょうだいね。音響機器メーカーのビクター製品の修…

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一六八回 INAXメンテナンス事件⑥ 労組法上の労働者と言えるかどうかを判断する手法は、労委と裁判所とでそれほどの相違は認められない。しかし、例えば社員バッチの貸与を労働者性の証であると常に言いうるのかは、なお検討することを要するだろうな。A…

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一六七回 INAXメンテナンス事件⑤ これまで述べたような経過をたどって、事件は最高裁の判断に委ねらることになったんだよ。最高裁は、高裁判決(原判決)を破棄し、被上告人(会社)の控訴を棄却するとしました(最3小平成23・4・12)。要するに、一審…

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一六六回 INAXメンテナンス事件④ 東京地裁は、会社からの処分取消の訴えを棄却した(東京地判平成21・4・22)。ここでの争点は、CEの皆さん方の労組法の労働者性と不当労働行為の成否であるが、労組法の労働者性について判決は、労組法の労働者を次のよ…

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一六五回 INAXメンテナンス事件③ 労組法は、ある程度、融通無碍なところがあって、「使用者概念」が拡張がされて来たって言っただろ。しかし、何でもかんでも拡張じゃあ、法的安定を欠く結果になってしまうな。そこで、法的不安定を現出させない程度の拡…

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一六四回 INAXメンテナンス事件② CEの皆さん方が加入する労組からの団交要求を拒否したことに対して、大阪府労委と中労委とが団交しなさいと言ったんだったな。これに対して、会社は、大いに不満だったんだろうな。従業員ではないCEが加入する労組と…

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一六三回 INAXメンテナンス事件について① 常滑駅の西に広々と広がる工場群があります。INAX本社と常滑工場だよ。伊奈さんと従業員の努力により、住宅機器メーカーのトップ企業となって久しいね。浄水フィルターやトイレ用品など、知らず知らずにIN…

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一六二回 ユーロ危機の教訓と労働関係 ハッキリ言っときますが、わたしゃ、鬼面ひとを驚かす類の話はしたくないわさ。しかし、もう黙っておれんぞ。「国債発行残高が1000兆円越えても日本は大丈夫。国民の預貯金総額のほうが多いから」なんてたわごとを…

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一六一回 労働者派遣問題⑭ 民主党と連合の皆さんは、派遣対象となる26業種(施行令4条)を圧縮することと、日雇派遣の禁止をおこなうことを主張してきましたよね。これは、派遣切りによって多くの労働者を路頭に迷わせた苦い経験に基づく主張であったので…

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一六〇回 労働者派遣問題⑬ 派遣先事業者の責任について考えておこう。派遣元事業者は弱小企業であることが多く、責任感も希薄なことが多い。派遣労働者の需要が増大して派遣業を解禁した事情からして、派遣先事業者に派遣労働者の労働を指揮命令を使用するこ…

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一五九回 労働者派遣問題⑫ 派遣元に雇用されて派遣先において指揮命令を受けるのが、派遣労働者だったよな。これは、派遣法の定めから明らかなことです。しかし、最近は、派遣労働者が派遣先事業者との間にこそ雇用関係が存在していると主張する事例が見られ…

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一五八回 TPPと労働問題④ TPP交渉参加問題を途中で挟んだから、鋭い学生諸君は国際労働者派遣の可能性はあるのかないのかと考えているに違いない。だろ?TPPに関連して、派遣業者の中にはチャンス到来とばかりに小躍りしているところもあるでしょうね。外国…

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一五七回 TPPと労働問題③ 看護師として研修した女性達への日本での看護師資格の付与のための試験の評判がよろしくない。外国が承認した職業資格を日本では認めないのが、これまでの日本の立場なんだよ。神戸地震のときでも、外国の医師は診察まかりならんだ…

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一五六回 TPPと労働問題② 交渉参加へ向けて協議するという首相説明は、山田議員のように交渉に参加するんじゃないから安心したというように理解する人もいます。交渉に参加するためには、遅れて行くわけだから入ってもいいですかと聞かなくちゃならないし、…

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一五五回 TPPと労働問題① TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加については、連日マスコミで賛否両論が報道されてたよな。だがじゃよ、農協や医師会が反対と言い経団連や商工会が賛成というので、国民の中には、TPPは主として農業問題だと思ってる人が…

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一五四回 労働者派遣問題⑪ 派遣労働者の派遣先での仕事が特定されていて派遣先労働者がそれには従事しない場合と派遣労働者が派遣先労働者と渾然一体となって働いている場合とが、区別されるべきであろう。前者は、派遣先での仕事が派遣労働者にのみ割り振ら…

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一五三回 労働者派遣問題⑩ 派遣法2条6号に「紹介予定派遣」て書いてあるな。このことからどんなことが分かるかな。派遣業者は、有料職業紹介業を同時に営んでいることが多いってことだよね。職業紹介に対する厳しい法規制の時代を知っている者にとっては、こ…

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一五一回 労働者派遣問題⑧ 偽装請負なる新たな問題が、存在すると言われています。この問題に関してはこれまでにも少々触れたんだった。この場合の偽装なる概念は、昭和61年の労働省告示にその根拠があるんだったな。記憶してるかな。偽装というのは、世の中…

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一五二回 労働者派遣問題⑨ 一人でも労働者を雇用すれば、使用者は使用者としての責任を負うことになります。労働者派遣先による指揮命令の事実があるからといって、それだけでは、派遣元(使用者)以外にも雇用契約上の使用者(派遣先)が存在するとはいえな…

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一五〇回 労働者派遣問題⑦ 労働者派遣業者は、常時雇用するかどうかは別として、労働者の雇用主、つまり使用者というわけだ。使用者たる派遣業者は、派遣元事業者として派遣先事業者との間で「当事者の一方が相手方に対し労働者を派遣することを約する労働者…