錚吾労働法

71回 原子炉事故と労働⑥
 原子炉事故によって、どのような事象が発生し、労働者がそれとどのように格闘してきたかについて、引き続き書いておきたい。重要なことは、炉心とプールの冷却である。19日現在、「緊急炉心冷却装置(ECCS)」は一度も作動しなかった。何故かと疑問を感じていたが、「原子炉が地震で自動停止した後に、津波のために「電源喪失」が起こったため」であるという。技術的な失敗と言うほかないだろう。
 「冷却水系」は、「注入ポンプ」や「循環ポンプ」を駆動させる電源を確保しなければ稼働しない。これらが駆動し、稼働するようになれば、格納容器の冷却も炉心への水の注入も、迅速に行える可能性が生ずる。これは、事態がさらに悪化する前に行わなければ手遅れになる。その意味で、「電源回復」に全力を注入するのでなければならない。電源回復は、「中央制御室」機能の回復をもたらす可能性がある。20日の新聞各紙は、電源回復作業について報道した。しかし、大量の放水も行われている最中であり、電源回復は簡単ではない。
 22日午後10時43分、3号機の「中央制御室」への通電に成功した。この機能回復は、原子炉及びプールの現状態の把握が可能となるという意味において、決定的に重要である。また、原子炉建屋内やタービン建屋内を手探りで細かな作業を余儀なくされてきた労働者の負担は、「中央制御室」が動けば軽くなるだけでなく、パネルが信頼できる程度に動けば、炉心の状態すらも正確に把握できることになる。
 24日、3号機タービン建屋地下1階で、労働者3人が、原子炉注水用の電気ケーブル敷設中に汚染水(深さ15センチ)に足を踏み入れたため、放射線被曝した。被曝現場は、暗闇の中であった。その内の2人は、被曝線量が年間限度量に近く、病院に搬送された。この汚染水が原子炉からのものか、プールからのものかは、不明である。建屋に汚染水ばかりでなく、2号機取水口付近のピットから海に流出している高濃度汚染水もある。漏水源も漏水経路も、不明である。4月6日朝までに、ピットに流出していた汚染水がとまった。水ガラスの使用が奏功しとようである。
 東電によれば、燃料棒の損傷は、1号機70%、2号機30%、3号機25%であるという。また、1号機の水素爆発防止のため、6日にも1号機への窒素ガス注入を開始するといい、実行した。注入作業は、6日間かかるという。同作業は、2号機、3号機にもおこなわれる。また、東電は、3月21日から22日に採取した敷地内土壌かたプルトニウムが検出されたとしていたが、28日に採取した土壌からも、プルトニウムを検出したことを公表した。肺に取りこまれると、危険である。      
 ピットから海に流出していた汚染水は止まったが、大量の汚染水(低濃度と言うが)の処理もまた、復水器が満杯である上、ピットもトレンチも汚染水貯蔵所と化してしまっており、その上今後も大量の汚染水が出るので、その一部を海に放流してしまった。タンカーを買い入れるなりすれば、こんなことをすることしなくてもよかっただろう。発想が貧困であるし、汚染水貯蔵船を発注したという話もないようである。
 電源の完全回復にはいたっていないのか、炉心シャワーが作動したという喜ばしいニュースは、首を長くして待望しているのであるが、報じられていない。原子炉崩壊の進行は、まだ停止したわけではない。原子炉労働者の格闘は、今現在も、続行されている。コードを引っ張り、螺旋を絞めたりゆるめたり、バルブを開けたり閉めたり、穴を開けたり詰めたり、柄杓で汚染水をバケツに入れて運んだり、瓦礫を除去したりを、放射線量を計算しつつ行っている。今の作業は、福島原発の全部廃炉への助走であろう。
 政府は、どうするつもりなのか。東電は、どうしたいのか。国家のエネルギー政策の一環として増設してきた原発の事故は、これまでにもあったが、これほどの大規模なのは、初めてである。「原子力委員会」や「安全保安院」は、ばね仕掛けのように動くものとばかり思っていた。各「中央制御室」に陣取るものとばかり思っていた。テレビで今にも危険でなくなるようなコメントをしてきた者達は、今の事態をどのように解説してくれるであろうか。彼らもまた、原子炉で食べている労働者にはちがいない。結局、彼らは理解出来なかったのだ。現場を徹底的に検証してほしい。その後に、もう一度、解説してほしい。
 そうしないと、現場の労働者に申し訳ないとおもう。20ミリ・シーベルトなら子供も教師も問題なく学校で活動できるというのは、本当のことなのか。まともな政治家や学者なら、子供を疎開させるはずだと思います。親も、教師も、児童も、20ミリ・シーベルト安全だとは思わないだろう。10年後、20年後の責任という観点を忘れた議論ではないのか。過去の責任ではなく、将来の責任がとわれているのです。児童の将来には、責任ある選択をしましょう。