錚吾労働法

一七回 賃金ーその3賃金の支払い
 使用者は、賃金を直接労働者に、通貨で、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません(労基法24条1項2項)。これを賃金支払いの基本原則といい、直接払い、通貨払い、全額払い、毎月一回定期日払いと言います。
 賃金は労働の対償なので、労働しなければ賃金請求権は生じません。労働義務を履行できる状態であったのに、使用者がそれを受領しないことがあります。この場合、賃金請求権が発生することがあるので、注意を要します。
 直接払いは、労働者本人に支払えということです。父母、妻、子であっても、賃金を受領できません。付け馬に支払ってもダメです。使者や代理人と称する者にも、支払わないで下さい。
 通貨で支払うとは、強制通用力ある現金で支払えということです。我が国で通用力を欠く外国通貨での支払いは出来ません。小切手や手形での支払いも、いけません。通貨でない原油や大根で支払いに換えることも、出来ません。
 賃金は、全額支払われねばなりません。賃金の割賦払いなどは、論外です。ストライキしたときには、ストライキ相当時間の賃金は、支払わなくてかまいません。しかし、賃金カットは、ストライキ終了時に接着した月にすべきで、何カ月か後のカットは許されません。この場合、過払いしたことになりますが、調性的相殺は許されないわけではありません(福島県教祖事件・最高裁判決)。
 賃金債権を任意に他人に譲渡することはできますが、譲受人から支払い請求されても、支払ってはいけません(小倉電話局事件・最高裁判決)。
 税金や社会保険の負担金などの控除は、法定の控除で差し支えありません(24条1項但し書き)。労働組合との書面協定による組合費の控除も、差し支えありません。
 労働者の不法行為による損害賠償債権を有する使用者は、これを賃金と相殺してはなりません(日本勧業経済会事件・最高裁判決)。使用者が債務不履行による損害賠償債権を有するときも、同様です(関西精機事件・最高裁判決)。