錚吾労働法

七十回 原子炉事故と労働⑤
 毎時の被曝線量の設定は、自然界以外で放射線が実際に観測されるような環境での労働については悩ましい問題です。子佐古氏の内閣府参与辞任は、この問題の難しさを浮き彫りにしました。専門家だけではなく、現場の近隣住民だあるかどうかを問わず多くの人々の関心が集中している問題です。ましてや、原発労働者及び近隣の住民、それに放射能ある物質の飛散に曝されている地域の住民にとっては、人ごとでは済まされない問題であるはずです。
 原発事故以前の放射線被曝に関する労働者保護に関しては、「電離放射線障害防止規則」4条1項が原則的な規定でした。それによれば、事業者は「5年間につき100ミリ・シーベルト」かつ「1年間につき50ミリ・シーベルト」を「超えないようにしなければならない」とされています。これらの放射線量は、いずれも「実効放射線量」で、「等価放射線量」ではありませんので、注意して下さい。
 また、これらの放射線量は、「管理区域」内において「放射線業務」に従事する労働者
(「放射線業務従事者」)に関するものです。そうでない日本人の我々が、自然界からあびる放射線量は1年間につき平均約1ミリ・シーベルトだとされています。今回の原子炉事故の緊急対応するための労働者については、厚労省は、3月19日、1年間250ミリ・シーベルトに引き上げた。しかし、4月30日の報道では、既に240ミリ・シーベルトに達した労働者がいるとのことである。
 「炉心溶融」の可能性が報じられたのは、1号機建屋が3月12日午後3時36分頃に「水素爆発」によって破壊されたときからであった。この建屋内には4人の労働者が「ベント作業」と「ホウ酸注入作業」をしていたという。これら労働者の被曝の程度は、不明である。また14日午前11時1分ころには、3号機建屋が水素爆発によって破壊された。圧力容器内の水位低下のため「海水注入」をしていたが同容器内圧力の上昇のため、同日未明に労働者が一時退避した。そのため、海水注入が中断されていた。中央制御室には13人ないし15人の労働者が在室し、冷却水注入を継続していたという。被曝の程度は、やはり不明である。 他方、1号機から3キロ圏内の病院労働者3人が、除染後も高い放射線量を示し、「2次被曝」していた。同人らは「2次被曝医療機関」に搬送されている。2号機では、14日午後6時頃に、冷却水が消失して、「燃料棒の完全露出」という超危険な状態が出来した。同日午後9時ころには、正門で「中性子線」が検出されている(放射線量は不明)。
 2号機の事態は、給水ポンプの燃料不足が原因であったという。原発労働者の不注意という見方もあろうが、東電の怠慢というべきである。保安院によれば、燃料は4時間で切れるのに、どうしてそれを予期しなかったのかということである。15日午前6時14分頃、2号機で衝音があった。「格納容器」下部の「圧力抑制室」の損傷によるとされている。また、15日午前9時38分頃に、地震発生時に運転停止中であった4号機の「使用済み核燃料貯蔵プール」付近で火災が発生した。「圧力抑制室」損壊直後、原発周辺の放射線量は、969・5マイクロ・シーベルトに達し、火災後の午前10時22分ころ、3号機付近で毎時400ミリ・シーベルト(40万マイクロ・シーベルト)、4号機付近で100ミリ・シーベルト(10万マイクロ・シーベルト)、2号機と3号機の間で30ミリ・シーベルト(3万マイクロ・シーベルト)を記録したと報じられている(読売新聞3月15日夕刊)。同日、政府と東電は、「福島原子力発電所事故対策統合本部」を設置した(本部長菅総理、副本部長海江田大臣と清水東電社長)。
 この間、自衛隊は、安全院と東電が安全だと言いつつ依頼されたので、原子炉への給水などの支援してきたが、3号機の爆発で隊員4人が負傷したことで、態度を硬化させている。他方、警視庁は、16日の政府から警察庁への出動要請、それに基づく警察庁の指示により機動隊を出動させ、高圧放車でプールへの放水を決定。自衛隊は、同日、ヘリによる冷却水投下の準備にはいった。プールは、沸騰常態にある。17日から、3号機への冷却水の放水と投下が実施された。プールからは水が蒸発し続いており、使用済み核燃料が破損し、大量の放射性物質がまき散らされる可能性がある。給水を当面は継続しなければならない。惨事回避のためである。当然、1号機から3号機の炉心への海水注入は、継続されている。18日、東京消防庁も、消防車30台を投入すると決定した。19日未明から、東京消防庁による放水も開始された。