錚吾労働法

六九回 原子炉事故と労働④
 労働者の被曝は、確実に発生している。遺伝子レベルでの検診も、なされることとなろう。業務上の負傷または疾病についても、未だ確実な医学的知見が確立されていない被曝の程度をきちんと検討して、その存否が確定されねばならないであろう。労基法19条の解雇制限規定の適用に際しては、「療養のための休業期間」の長期化を計算しておかねばならない。「打切補償」の実行は、回避されるべきである。
 東電と政府とで「福島原子力発電所事故対策統合本部」を、3月15日に設置している。この本部が現地労働者に対する指揮権を有することは、海江田大臣の東京都消防隊員に対する[処分する」発言からすると、明らかであろう。東電プラス政府で、労働者に対する使用者たる地位を設定したのであろう。労基法81条の規定は、適用されてはならないと解する。
 労基法が全く想定していない事故であるから、この事故を原因とする負傷や疾病に無理やり労基法を適用するなどは、愚かなことであろう。労基法75条以下の災害補償の規定や、労災補償法7条の規定に関する行政指針の適否について、早急に検討すべきである。全くの新法でもって、対応するほうが良いのではないかとも思われる。是非、検討してみて欲しい。
 また、当然のことではあるが、原子炉運転を続けるのであれば、暴走をコントロールするための設備、機器及び器機の設置、保安要員、保安施設の充実、建屋設計の変更、原子炉設計基準の改良、耐震性の強化、避難指示権者の明確化などなど、それに先だってなさねばならないことが山積している。労働者の労働動作を考慮していない設計ではなかったかなど、反省材料は山とあるはずだ。