錚吾労働法

九七回 賃金③
 「ノーワーク・ノーペイ」なる原則があると、教科書に書いてあります。労働契約を締結し、使用者との間に労働関係があっても、「ストライキ」など実際に就労しなかった日数、時間があれば、それに相当する賃金は支払われないという。この説明は、実際は、正確ではない。その日数なり、時間なりについては、賃金請求権が発生しないと言うべきでしょう。ただし、労働に対応していない金銭の給付も、賃金だとされているので、注意しないといけない。
 「扶養手当」、「配偶者手当」などは、その典型です。労働者が働こうが、働かまいが、関係のない賃金費目だと理解されているからです。もっとも、労働者が労働しなければ、その日数、時間に相当する額をこれら手当から減額する旨を明示してあるときには、差し引いてもよろしい。そこまでしている企業は、殆どないでしょう。
 「ストライキ(「同盟罷業」)」は、わが国では、「出勤して労働しない」という形態です。その日は「出勤しない」、「社内に入構しない」という形態ではない。「通勤手当」を使用者は支払うべきか。「通勤手当」は、労働者が労働するために通勤する実費を支給するというものなので、ストライキが「全日スト」に及んでいるときには、支払わなくてもよい。労働日の一定時間を労働しない「時限スト」のときには、「通勤手当」は支給されなければならない。
 「部分スト」、「一部スト」、「指名スト」の場合には、使用者がいったい労働者の内の誰が働いていないかを特定出来ないことがあります。賃金債務の履行は正確になされなければなりません。従って、誰がその日に何時間労働しなかったかを調査、確定しなければならない。そこまでは、誰にでも理解できるでしょう。それで、使用者が数カ月後に、賃金からその分を差し引いたとします。労基法24条を読んで下さい。「全額払い」の原則に反して、違法な賃金の差し引きとされる可能性があります。「調整の実を失わない合理的に接着した期間内の差し引き」ならば良い、と最高裁は言いました。2か月以内にせよというのかな。使用者は、賃金を「過払い」したのだから、労働者は「不当利得」したことになります。上の期間に「調製差引」できなかった使用者は、労働者に「不当利得返還請求」するほかないことになります。
 会社に出勤して労働する意欲満々なのに、門が閉じられていて働けないということも、あります。使用者が災害などの理由で休業しているときには、労基法26条を読んで下さい、「使用者の責に帰すべき事由による休業」とはいえないので賃金は支払われません。他方「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い観念ですから、注意しなければならない。例えば、急激な為替相場の変動によって休業せざるを得ないときに、使用者は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業として、最低6割の賃金を労働者に支払うのでなければなりません。
 使用者が、労働者の労働を拒絶することもあります。「就業制限」すべき場合に、労働者がそれに従わないのであれば、使用者は労働者を働かせてはなりません。「部分スト」実行されて、生産不可能となっているときに、使用者は「スト不参加者」への賃金支払いを免れるため「作業所閉鎖」(「ロックアウト」)をすることがあります。これを「防衛的ロックアウト」と言います。労働者が労働すると言ってもそれを拒否し、賃金も支払わなくても良いのです。