錚吾労働法

一四四回 派遣労働者問題①
 派遣労働者は増えることがあっても減ることがない、と言われてきました。派遣労働そのものは、派遣労働法ができるはるか以前から行われていました。もっとも、労働者派遣事業は、中間搾取・ピンハネの悪弊を伴い、組織的暴力団が主として行っていた事業であったため、長年の間、禁止されていた。せいぜい、家政婦派遣事業などが、特別に許可されていたに過ぎません。とは言え、違法な派遣事業は、かなり大っぴらに行われてきたのです。しかし、既に述べましたが、政府などによる働き方の多様性の推奨とかが、特に若者うけしたこともあり、派遣労働者数の増加には、予測以上のものがありました。
 派遣労働は、しかし、派遣をうける企業にとっては労働者を景気変動に応じて増減させることができるため、労働者の地位を不安定なものとするのです。それで、派遣労働の可能な業種・業務を限定していたんだが、規制緩和の一層の推進とか、派遣労働者需要の増加てなことで、一般製造業への派遣の解禁をしたんだな。もっと派遣労働者をわが社によこせなんてね。いったん解禁してしまったら、もう後戻りは出来ないんだよ。労政審議会で労働者派遣の規制緩和に関わった者達は、しまったと思ったんじゃないの。格差社会への扉が全開になってしまった。冒頭から不満を言ってしまった。だいたい労働者供給事業が厳しく制限されているのに、労働者派遣業を野放図に拡大してしまったことは、バランスを失することじゃないのかな。落ち着けない座布団に座っているような心境だよ。
 ところで、労働者派遣は、派遣業を営む者が雇用している労働者を他人の業務のために他人の指揮命令を受けて働かせることを言う。だから、雇用関係は派遣事業者と派遣労働者との間にあって、他人と派遣労働者との間には存在してはいないのさ。これは、派遣労働の定義だから、頭に叩きこんでおこう。派遣労働者は、派遣事業者が雇用する者で、派遣の対象者たる者を言います。派遣の対象とならない労働者は、派遣事業者に雇用されていても、派遣労働者ではありません。派遣労働は、請負労働ではありません。請負の場合には、他人が労働者に指揮命令することは出来ないのです。外国人が派遣労働者として働くことも、今では、ちっとも珍しくありません。派遣労働者に対する処遇は、良好とは言えないので、個別労働紛争発生の温床となっているようです。
 派遣労働者労務管理の難しさは、雇用主と派遣先での指揮命令権者とが同じではない所にあります。実際、派遣先の指揮命令者を使用者であると思いこむ労働者も、少なくありません。日本語が必ずしも堪能であるとは言い難い外国人にこのシステムを完ぺきに理解させることは、難しいのではないかな。また、労働政策による派遣労働者の保護のための労災などの局面における派遣先事業を使用者と同視する「みなし」規定の充実によって、使用者概念の拡張または拡散が起こっているので、以上のような誤解が発生するのも無理からぬ面があるのです。最近は、何事につけ「説明責任」が強調されてるのを知ってるかい。派遣する方も派遣を受ける方も、労働者に「ちゃんとした説明」しなきゃダメだよな。君らも派遣労働者になるんだったら、「そんなこつっうどうでもよかとね」などと言ってちゃあ、お先真っ暗だぜ。