籾山錚吾教授の労働法教室

第六 回使用者と労働者ーその2
 働くときに、労働契約を締結していない者がいて、金銭収入を増やそうとするときに、誰を使用者として話し合いをするのが適切かという問題がある。
 本職は弁護士で、大学の専任教師であるだけでなく、テレビのワイドショウに出演している者がいるとしよう。弁護士稼業を自己の事務所で独立しておこなっておれば、弁護士は労働者ではないが、雇われ弁護士ならば、労働者である。大学の専任教師という面では労働者だが、学内ポストの関係では使用者かもしれない。テレビ出演者という面では、この弁護士は労働者なのか、労働者でないのか。テレビ局への行き来の途上で事故にまきこまれたら、労災認定され得る労働者なのであろうか。
 力士が団結して処遇の改善を求めるとしたときに、その相手となるべき者は、部屋持ち親方か、それとも相撲協会なのか。または、このような発問自体が、ナンセンスなのか。プロ野球選手会と力士会とは、どのように違っているのか。考えるだけでも、面白いのでは。派遣労働者の使用者は、派遣元の使用者に限定されるのか。企業の一部をアウトソーシングして、従業員であった者が社長になったとしよう。社長の下で働いている労働者の使用者は、誰なのか。
 労働契約と請負契約は、似て非なるものです。民法の講義では、その区別の基準について詳しく学んだはずである。請負契約では、通常は、労働者を観念することができない。しかし、形式論だけでは、労働者を観念できないと断定してはならない。請負契約が実質的に雇用関係を見えなくしているに過ぎないことも、ある。
 上に述べたことは、労働者性や使用者性を判断しなければならなくなる例のごく一部ですので、実質的に考慮すべきです。働いている者が、他人の指揮命令下に従属しているかどうかを考究しなくてはならない。子の関係が認められれば、形式上は、使用者でない者が具体的な労働法規とのかかわりにおいて、使用者だとされることがある。