錚吾労働法

第十二回 労働条件の原則
 労働条件は、基本的には労働契約の当事者が話し合って決めるべきことです。労働時間、出社・退社時刻、休憩時間・時刻、ティーブレイク、残業時間数の上限、出張中の労働時間、持ち帰り仕事の時間など、労働時間だけでも、話し合って決定しておくべきことは、多岐にわたります。労働契約上は、労働条件の原則とは、合意による決定を意味しています(労契法3条1項;労基法2条1項)。
 労働条件の原則は、労基法のレヴェルでいえば、労基法憲法27条2項にいう法律に当たりますが、この法律を媒介として勤労者・国民の生存権憲法25条)を実質あらしめるため労働市場に干渉することをも意味しています。そこでは、労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならないとされています(労基法1条1項)。
労基法所定の労働条件は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならず、その向上に努めるべきだとされています(労基法1条2項)。労基法所定の労働条件を最低のものと言っている趣旨は、国の労働市場への干渉を最低限のものに止めているということです。
 労働者は、使用者に対して通常は弱い立場にあります。対等の立場に立つのは、しかし、なかなか難しい。それで労基法は、最低限度の配慮をして対等の立場への接近を可能ならしめるための一助としているのです。
 労働条件は、労働契約の次元では、労働者と使用者が対等の立場で決定されるべきだとされます。しかし、使用者は就業規則を定めることができ、就業規則には労働条件が定められています。これは、使用者が一方的に労働条件を定めることを意味します(労基法90条;短時労7条)。
 個々の弱い労働者も労働組合という集団の示威力を用いることにより、使用者と労働協約を締結します。この労働協約も、労働条件を定めています(労組法14条)。