錚吾労働法

第一〇回 募集と応募
 賃金を得てしか生活することができない者は、社会的に労働者ですが、実際に使用者と労働契約を締結して実際に労働者となる外ありません。それは、就職することです。社会的な労働者であれば、誰しも就職できるものではありません。就職するためには、求人者(募集者)と求職者(応募者)とが労働市場において相まみえるひつようがあります。
 募集は、求職者を募集手続へと誘うことである。募集への応募は、その誘いに応じることです。応募者に対する募集者による面接などの試験の通知とその実施は、募集者による選考・選抜を通過する応募者を採用する可能性があるとの告知である。労働市場では、労働力の需要と労動力の供給とが調整されることになる。募集から選考・選抜に至る過程は、この調整の具体的な姿だと考えてください。
求職者には求人者の募集に応ずるか、または応じないかの自由があります。これは、職業選択の自由の帰結です(憲法22条)。同様に、求人者には採用の自由があります(憲法22条、29条)。自由な経済秩序の根幹をなす営業の自由の一環として、採用の自由が確保されねばなりません。
 募集と応募が自由に委ねられていることも、契約の自由の重要な意義に属します。使用者団体と学生を労働市場に送り出す大学とが就職協定を締結しています。これにより、就職活動の開始は、企業や学生の自由になっていません。求人者と求職者とがいつでも相互にアクセス可能なシステムでなければ、労働市場の国際化に対応できなくなるので、よく考えなければなりません。
 採用の自由は、差別を許すことではありません。男女別の採用基準は、雇用機会の均等を阻害することになる。男女別コース制は、公序違反とされよう(民法90条)。募集・採用手続きから一方の性を排除してはなりません(雇均法1条、5条)。
 労働者の採否にさいして、使用者がその者の思想・信条の調査をしたり、思想・信条の申告を求めても違法とは言えないとされている(三菱樹脂事件最高裁判決)。しかし、企業のかかる行為は、決して称揚されるべきではない。