錚吾労働法

二七回 同一労働同一価値の原則ーその2
 同一労働同一価値の原則のその1で見ましたように、この原則には一様ではない目標が随伴しています。しかし、最も重要な事柄は、民族、人種、国籍、身分、出身地域、性別、年齢、学歴など人間の間に差別を持ち込んできた諸種のファクターを再検討することにあります。差別と言うと熱くなる人もいますが、ここでは冷静に考えましょう。
 わが国では、憲法が人種、信条、性別、社会的身分、又は門地により差別されない法の下の平等を定め(憲法14条1項)、労基法が国籍、信条又は社会的身分を理由として差別されない均等待遇(労基法3条)と女性に対する賃金差別の禁止(労基法4条)を定め、また雇均法が男女の均等な機会と待遇について定めています。これらをよく読んでみてください。
 若い労働者が、自分の方がよく仕事ができるのに、右隣で働いている自分よりも高齢な労働者に比べ、自分の賃金が安いのは納得できない、差別されていると主張しているとしましょう。この若者は、正しいことを言っていますか。
 若い労働者の左隣で働いている同年齢の女性労働者が、仕事は自分の方が勝っているのに、隣は男性というだけで賃金が多いのは納得できない、差別されていると主張しているとしましょう。この女性は、正しいことを言っていますか。
 わが国の会社でさいようされている賃金体系は、賃金が年を経るに従って上昇カーブを描く年功賃金だと言う点に特色があります。仕事だけで賃金が構成されているわけではなく、結婚、出産、育児、教育、親の世話などをも考慮する賃金です。
 男性の若い労働者の主張は、年功賃金の良さをも攻撃しているのです。これに対して、女性労働者の主張は、当たり前の主張なのだと言えるでしょう。では、大卒の若い能弁な労働者が、自己の職業てきな未熟を棚に上げて、高度な職人的技能を有する高卒の無口な高齢労働者の自分よりやや高い賃金について、自分は差別されていると主張している場合はいかがでしょうか。
 物事をきちんと見る目を持っている者なら、無口な労働者の肩を持つでしょう。若造より僅かに賃金が高額だという事実は、逆に高齢者のほうが差別されているのではないかという疑念が生じます。日本の企業が高度な職人的技能を有する労働者を冷遇してきた事実は、世界的に有名な話になっています。
 他方、景気の調整弁とされてきたアルバイト、パート、派遣などの労働者や、臨時職員の均等待遇の確保という困難な問題がありなす。これらの問題については、後述したいと思います。