錚吾労働法

三六回 労働時間ーその3労働時間の短縮
 労働時間の短縮は、進行の遅い課題となっています。では何ゆえに、時間短縮は進まないのかな。松平定信日記から判明することは、侍たちは1日2時間程度のご奉公だった。一心太助のような商売は、蜆売りと同様、早朝に売り歩いて、あっという間に1日の労働は終了してしまった。農民は、米作りの場合要所要所に忙しいときはあったが、総じてノンビリしていた。商工は午前10時頃から午後4時頃まではたらいていたらしい。現代の労働時間と比較すると、江戸時代の労働時間は随分と短かったんだね。
 労働時間が長くなったのは、経済が米穀経済から貨幣経済へと変わったからです。現金収入を多くするための手っ取り早い方法は、長く働くことでした。時間で稼ぐというやり方ですね。しかし、使用者は、時間単価を下げることによってこれに対処しようとしました。かくして、長時間労働・安月給なパターンが出来上がったのでした。
 時間単価の引き上げと時間短縮は、戦後の春闘方式の組合運動の目標でしたが、団体交渉によっては実現されず、池田内閣の所得倍増政策によって、時間単価が大きくなったのでした。しかし、高度経済政策が順調に遂行された結果、時間短縮には及ばず、時間外労働が増加したのです。
 さて時間短縮が課題だと言いましたが、時間短縮するとどんなことが期待できるでしょうか。労働時間には、所定内時間と所定外時間がありますが、時間短縮するときには、これを短縮することになります。ので、これらについて簡単にふれておきましょう。
 所定内時間は、事業所の就業規則などで定めてある労働時間であって、休憩時間を含みません。所定外時間は、早出、残業、休日労働などの労働時間で、休憩時間を含みません。いずれにおいても、実労働時間をいいます。
 所定内または所定外のいずれの労働時間を減らしても良いのです。所定内時間を減らすほうが、時間短縮の効果は大きいといえるでしょう。時間短縮は、労働者にとっても、また企業にとっても好ましい効果をもたらします。
 労働者にとっては、働きやすい、働き甲斐がある職場で、余暇が増加して、自己研鑚ができ、心身の疲労が回復し、家族生活を充実させることができ、地域の催しに参加できるなどのメリットが生まれます。
 企業にとっては、魅力的な職場とすることができ、人材確保にも人材育成にも有利であり、作業能率の向上を見込むことができ、労働災害を減少させることができ、労務管理がより容易になるなどの利点が生じるのです。
 また近時増加しつつある失業者の雇用や、派遣労働者の派遣先会社での正規社員化にも、労働時間の短縮は役立つことになります。労働時間の短縮は、裾野の広範な問題ですので、もっと真剣に取り組みましょう。職のある恵まれた者たちは、他人のことも考えて頂戴よ。