錚吾労働法

四〇回 労働時間ーその7労働時間法④
 労基法32条の2の定めを読んでください。この規定は、1カ月単位の変形労働時間制を定めています。この規定における特定された週または特定された日の特定とは、いかなる意味を有するのでしょうか。
 変形労働時間の設計図は、一方で労働者の労働時間の毎週、毎日の配分は固定的であるのが望ましいが(労基法32条)、他方では会社の連続操業の必要性や労働者の健康などの利益を害さない範囲での長時間労働や交代制労働への需要に応ずるため労基法32条の規制から外れるのもやむを得ないものとして、描かれたものであると理解することになるでしょう。
 労基法32条の2は、使用者が特定の月、特定の日を予め書面協定によって労働者の代表者(過半数組合または過半数代表者)と書面による協定をするか、または就業規則その他これに準ずるものにより変形労働時間制を定めることとしています。
 上の書面協定は、行政機関に届け出なければならず、就業規則の変更も行政機関に届け出なければなりません。問題は、就業規則によって変形労働時間制を定めた場合です。書面協定の場合には、過半数組合または労働者の過半数代表者がその内容をチェックすることが出来ますが、就業規則の場合ですと、使用者は過半数組合または労働者の過半数代表者の意見を聴取する手続きは必要ですが(労基法90条)、使用者が定めることが出来るため(労基法89条)。週の特定や日の特定がいい加減になされることがあるので、気をつけねばなりませんよ。だから、この点は、使用者も労働者側もしっかりとチェックしてちょうだい。分かったかな。
 鉄道会社の就業規則では、「ただし、業務上の必要がある場合は、指定した勤務を変更する」とされていたんだね。さあ、この就業規則は、労基法32条の2が要求している週の特定、日の特定をしているのかな。これが、大問題になったのさ。裁判所がどのように裁いたのかを見てみよう。
 裁判所は、1カ月単位の変形労働時間制を就業規則で定めるときには、変形期間内の始業時間と就業時間を毎労働日ごとに定めなければならないとしたんだね(JR西日本(広島支社)事件・広島高裁判決)。この考えは、労働時間の長くなる日と長くなった分を吸収するために短くなる日を具体的明確に定めよということを言っているんだよ。妥当な判決じゃなかったかな。
 上のような就業規則の定めは、極めて抽象的で、具体性のないものだと思うよ。この規定で変形労働時間を定めたと言われたんじゃあ、何時労働時間が延びて、何時労働時間が短縮になるのか、さっぱり労働者には分からなくて、使用者はいつでも好きなように労働時間を延短できてしまうね。これじゃあ駄目というわけ。
 ただ、鉄道会社なんだから、事故の対応しなくちゃならんし、病欠運転手の代わりを用意しなくちゃならないよ。車両の不具合もあれば、台風・地震・大雪などの復旧作業もあるから、労働者が臨機応変に労働する高度の必要性も、認めなくちゃならんわね。労基法も、災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働(労基法33条)、時間外・休日労働労基法36条)を置いて、このような場合のあり得ることを想定している。だから、変形労働時間制は、きちんとしたものに作り上げないとね。分かったかな。