錚吾労働法

三九回 労働時間ーその6労働時間法③
労働条件の明示義務(労基法15条1項)との関係で言いますと、労働時間は、労働者に対して必ず明示されねばなりません。そこで、使用者が、1週40時間、1日8時間とのみ口頭表示したとします。この場合、誰でも分かることですが、始業時刻、休憩時間の開始時と終了時、終業時刻についてハッキリと明示してないので、すぐにもめごとが生じるでしょう。
 仕事が事業場外で、しかも変動するような場合には、毎日それらを定時として明示することは、難しいかも知れません。しかし、毎日始業時間が変動するようでは、困ってしまいますよね。また、仕事場まで遠距離であれば、実際上仕事に要する時間が長くなってしまいます。このことから生ずる不利益を労働者に負担させてはいけません。
 このような場合であっても、始業時刻をハッキリと定めておくべきです。例えば、事業場への入場時刻とか送迎バス乗車時刻という具合に、使用者の指揮監督下に入る時刻として定めるべきです。それでは、バスに乗っている往復1時間も労働時間になるのかといって、目くじらを立てるのはよしてください。バスに乗れとの使用者の指揮に従っている以上は、それは、労働時間だといって良いのです。そんなことなら、休憩は無しだなんてとんでもないこと言ってはいけませんよ。言いかねないからなあ。重要なことなんだから、文書で明示して下さいよ。
 夜警業務者が夜中に仮眠するとしましょう。かっては、宿直者の仮眠は労働時間かどうかという問題でしたが、現在では警備会社の警備員の仮眠は労働時間かどうかと問題となっているようです。仮眠時間が労働時間であるかどうかは、労働義務から解放されているかどうかという基準によって判断されることです。全く解放されていれば、それは労働時間じゃありません。結果的に解放されていたというのであれば、それは、なお、労働時間であると言えます。例えば、夜中の着信に応信しなければならないが、着信は無かったというような場合が、これに当たるでしょう。
仕事が連続していない場合があります。休憩時間ではなくて、労働時間中に労働していないように見える時間があるような場合のことです。手待ち時間や監視断続労働の場合が、これに当たります。手待ち時間は、例えば、倉庫業者の労働者がトラックの出入りをチェックしつつ、積荷の入庫や出庫の記録をつける労働に従事しているとしよう。トラックは、常時連続して入構するわけではないので、その間に仕事をしていないように見える時間が生じます。これを、手待ち時間というのです。この手待ち時間を実労働時間から除いても良いかという問題です。
 そのいずれにおいても、労働時間となるかどうかの基準は、その時間に労働者が使用者の指揮下にあったかどうかなのです。このことを理解するためには、何もしなくてもいいから座っていてくれと言われて座っている例を指摘すれば良いでしょう。それは、使用者の指揮に従って何もしていないのですから、労働なのです。手待ち時間や監視断続労働とはそういうものだと、使用者ならば、分かっていなければなりません。
 ビルの管理会社などでは、管理業務は一日中あります。しかし、労働者には睡眠が必要なので、仮眠をとります。この仮眠時間は、労働時間でしょうか。これも、判断基準は、使用者の指揮下にある仮眠時間なのかどうかです。警備会社のビル警備員の仮眠時間も、同種の問題です(大星ビル管理事件・最高裁判決)。仮眠時間が、実質的に労働者の自由時間となっておれば、労働契約上は電話などに対応すべきこととされていても、労働時間にはなりません(ビル代行事件・東京高裁判決)。
 マンションの管理人は、住民の要望に応じて、始業時間前にも、終業時間後にも種種対応しなければならないことがあり、また就業時間内に付与された居室内での不活動時間もあります。管理会社派遣の管理人で、住み込みであったりすれば、この種の問題が発生し易いのです。直接雇用の管理人で住み込みの場合には、特に不活動待機時間を働いていないとして、居住者とのトラブルが発生し易いといえます。マンション管理人の不活動時間を労働時間ではないと言うのは、殆ど不可能でしょう(大林ファシリティーズ事件・最高裁判決)。