錚吾労働法

六五回 雇用調整助成金
 大震災のために職場の縮小、休業、廃業など労働者にとっても事業者にとっても辛いことが起こっているよね。何とかならないかと言っても、なかなか良い知恵は浮かんできませんね。何の慰めにもなりなせんが、「雇用調整助成金」について説明します。詳細については、労働局にまで足を運んで、詳細な説明を受けて下さいよ。最寄りの職安へ行っても親切に対応してくれるでしょう。
 震災以後、雇用調整助成金(「中小企業緊急雇用安定助成金」を含みます)という言葉がマスコミに頻繁に登場するようになりました。被災者の方々には、労働者も労働者を雇用している事業者の方々も、おられます。従って、この雇用調整助成金に関心をお持ちでしょうから、この制度について説明しておきましょう。
 雇用調整助成金の制度は、雇用保険法62条及び同法施行規則102条の3の定める「雇用安定事業」として行われるものです。雇用安定のために行う事業なので、通常は、「経済上の理由」(「景気の変動」、「産業構造の変化」、「その他の経済上の理由」)による「事業活動の縮小」が生じたために、事業者がその雇用する労働者を休業させる場合、つまり、所定の労働日の全1日または被保険者全員について1時間以上の休業若しくは被保険者についてそれぞれ1時間以上行われる休業(「特例短時間休業」)を想定したものです。
 この休業は、「事業者が指定した対象期間内(1年間)」に行われるもので、労使間の「休業競艇」によらねばならず、かつ労基法26条に違反しない休業手当の支払いでなければなりません。
 しかし、このような内容のものであれば、自然災害を理由とする休業には、適用があるはずはないのです。自然災害を直接の原因とする事業の縮小の場合はこれまで同様適用されませんが、「今回の震災に伴う経済上の理由で事業活動が縮小した場合に雇用調整助成金制度の利用ができるようになりました。その結果、休業手当相当額等の1部(中小企業については8割)の助成ができるようになりました。今回の震災に伴う経済的な理由による事業の収縮にも関わらず、雇用の維持に努力している事業者に、支援の手を差し伸べようというのです。
 では、具体的には、どのような場合に助成されることになるのでしょうか。
 地震津波によって「事業所が無くなってしまった」場合は、助成されません。事業所の存続していることが、必要だからです。但し、激甚災害の指定に伴う雇用保険の特例によって、賃金を受け取ることが出来ない労働者への失業手当の支給ができますので、この制度も利用するようにしましょう。
 「計画停電」で事業の縮小が生じた場合には、助成されます。ホテル、旅館などサービス業の事業者は、積極的に活用しましょう。
 「事業所の設備が損壊」などしたが、修理業者の手当ができない、修理用具、部品の入手が困難であるために、事業の収縮が発生した場合は、助成の対象となります。
 「交通機関のマヒ」によって従業員が出社出来ないか、出社困難となっているために事業の縮小が生じた場合、助成可能です。
 「避難指示」や「避難勧告により操業出来ない場合は、避難指示等が法令上の制限を理由とするものであり、経済上の理由によるものではないので、助成の対象とはならないでしょう。
 雇用調整助成金をうけている事業主が、今回に震災に伴ってさらなる経済的理由によって事業の収縮を経験している場合、助成可能ではなかろうか。否、助成しなさい。
 魚や野菜の売上高が、所謂{風評被害」によって減少した場合も、経済的理由によるものと解すべきであろう。
 助成を受けようとする事業者は、雇用保険適用事業所の事業者でなければなりません。最近半年の前半の3カ月と広範の3カ月を比較して、生産量、売上高が5%以上減少していることが、必要です(「5%減少実績」)。ただし、青森県岩手県宮城県福島県茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県の「災害救助法適用地域」の事業所については、5%以上減少要件を最近1カ月をその直前の1カ月と比較することとなっています。さらに、「本年6月16日まで」は、「5%減少見込み」であっても、助成可能とされています。さらに、5%以下であっても、直近の決算が赤字であれば、助成の対象になりますので、諦めは駄目ですよ。
 助成をうけようとする事業者は、計画書を作成して事前にハローワークに届け出なければなりませんが、本年6月16日までに届け出れば、「事前に届け出たものと見做す」ことになっています。言い換えると、「事後提出」でも受理しますということです。
 雇用調整助成金の金額についても、説明しておきます。これは、事業主がその雇用する労働者に休業手当を支払った場合に、その相当額に助成率を乗じた金額です。助成率は、大企業は3分の2、中小企業は5分の4ですが、事業主が解雇等を行っていないときには、その助成率はそれぞれ4文の3、10分の9にアップしますが、上限額は1人1日当たり7,505円となっています。
 応急に対処するため、以上に述べた通常時と異なる扱いは、雇用保険施行規則の改正によッて可能となりました。以上、ごく荒いスケッチでしたが、参照して下さい。