錚吾労働法

七六回 原子炉事故と労働⑨
 菅首相は、5月6日、海江田大臣との協議の結果、中電に対する浜岡原発4号機および5号機の運転停止を要請した旨を公表した。浜岡原発1号機・2号機は既に廃炉が決定しており、3号機は運転停止中であり、4号機・5号機が稼働中であった。6号機・7号機は、増設予定であった。「動かさないで欲しい」と言われれば、動かすことはできないだろう。法的根拠が無いといえば、その通りである。しかし、首相の要請を拒絶はできないだろう。
 中電のごとき大会社ともなれば、ステーク・ホルダーが多く、その利害関係は複雑である。想像だが、要請して拒絶されたのでは、または要請されたのに拒絶したのでは、互いに厳しい立場に追い込まれるから、公表に先立って、官邸と中電との慎重かつ隠密な意見交換がなされたものと思う。社長ら幹部は、株主総会でどう説明するのか、大口需要者をどう説得すべきかなどなど、頭をフル回転させなければならない。
 中電は、それでも、内心ほっとしたのではないか。東電の失敗を自分達も演ずることになるのではないかという悪夢は、どの電力会社にもあったと思う。かっての中電には、「政府に無理やり原発やらされるのはかなわん」という意識があったという。今回の首相要請により、停止中で廃炉決定した1号機・2号機を含め、結局全原子炉の停止で行かざるをえない。
 運転停止は、国家的な危機の回避措置であるが、原子炉労働を無用なものとするものではない。停止すれば、使用済み核燃料が大量に生ずるであろう。その冷却のために、燃料棒を引き上げてプールに移設しなければならない。6千本ないし7千本を多分10年近くは、冷却することになる。地震でプールが揺さぶられれば、高濃度汚染水(と言うより、高濃度汚染熱水)は、あっという間にプール外にまき散らされることになる。貯蔵プールを増設することなく、停止はできないであろう。
 停止措置を講ずれば、新燃料棒も使用済みの仲間入りをすることになるかもしれない。そうすると、発熱能が格段に高いので、プールの維持管理に新たな困難が生ずるかもしれない。従って、停止は評価すべきことと思うが、その後に過ちがあれば、やはり危機的な状態の発生はあり得る。原子炉を停止すれば、地震津波とをを考えてのことであるから、燃料棒を原子炉内からプールに移設することとなる。
 原子炉に内蔵された超危険物を外部にプールすることもまた、超危険なのである。労働者の労働が軽減されるとは、考えにくい。また、廃炉が決定されている1号機・2号機が実際に廃炉工事修了までには、相当長年月(少なくとも10年以上)はかかるであろうし、東電の原子炉と同様に、原子炉解体はわが国においては初めての経験であるから、ひょっとしたら国際的な作業になるかもしれない。原子炉を停止した上に、廃炉工事もといことになれば、それにかかる応分の費用負担を政府に求めなければならないだろう。
 この危険な作業の担い手は、どのようにして集められることになるのだろうか。監視モニターの仕事から、解体の仕事、運搬の仕事、保管の仕事まで、どれひとつとっても、間違いなく実行されなければならない。大勢の労働者を、必要とする。実際に労働者の集められかたや、仕事に対する理解、仕事をすることに対する同意などの、基本的な事柄について、国としても、きちんと対応せねばならない。厚労省・労働局は、監視・監督体制を強化すべきである。
 原子炉の停止要請を断ることなど、出来ない相談である。(水力発電および)火力発電を復活させるとして、燃料確保は、高い買い物にならないような交渉を余儀なくさせられるだろう。東電ばかりが大変なのではない。東電への送電も、止めたなどとは言えないだろうから、ぎりぎりまで送電努力をすべきである。中電への関電からの送電も、視野にいれておくべきであろう。出来るだけのやり繰りをして、特に一般消費者への負担の転化を、最低限に抑えるべきであろう。