錚吾労働法

一〇一回 原子力損害賠償支援機構法
 「原発事故」を起こしてしまってから「補完的損害賠償条約」に加入しようとするのは、いかにも虫が良すぎる。このことについては、条約の枠組みを紹介する中で述べたことである。とはいっても、当たり前のことではあるが、東電の原発事故によって発生した損害を賠償するためのわが国における枠組みを策定すべきでる。またそれが出来上がらないと、フラフラの東電のみが賠償出来る規模の損害ではなさそうなのは誰の目にも明らかなのであるから、どのようにして「基金」を造成すべきかが重要な課題となっていた。
 いかなる範囲の損害をいかなる考え方に従って、賠償すべきか。かくも甚大な損害が発生し続けており、かつ事故が終息していない状況下においては、「損害総額」が一体どの程度のものとなるのかの予測が困難である。さりとてその確定を待っていることは許されないのであって、「迅速な損害額の支払い」がなされねばならないし、「東電の賠償負担能力」の強化及び創出も速やかになされなければならない。
 このような客観的な情勢の中で、「国内版の補完的損害賠償制度」の姿を現しつつあるのは、喜ばしい。中小企業や農林漁業を対象とする「賠償仮払い」や、被災者への「義捐金」や「見舞金」の支払いが行われており、「原子力損害賠償紛争審査会」による「損害の範囲の判定」等に関する一次試案および二次試案も公表されている。これらのことが上手くかみ合うようなシステムを上手く作り上げなければならない。民事法における損害賠償法理による探求のみでは、未曾有の事態に対処することができない。組織的な基金機構の創出とそこへの賠償財源の集積を可能ならしめ、東電以外の原子力事業者(原子炉製造業者をも含む)や国その他の自治体からの拠出を可能ならしめる枠組み作りが、不可欠である。 
 事故を起こしていない事業者に奉加帳を回すような仕方をして何だという者が、いるであろう。いなければ、気持ち悪いくらいである。そんな人の言い分は、この際、辛抱してもらわないとだめである。東電は、国の1200億円の拠出を見込んで約500億円の仮払を実行している、早急に更に500億円の仮払が必要である。いわゆる「風評被害」も賠償の対象とされるので、基金への早急な賠償資金の投入がなされねばならない。その意味でも、法案の迅速な審議に入ってもらいたい。