錚吾労働法

一〇五回 解雇①内々定取消は解雇か
 使用者は、労働者を「解雇」することがあります。これからやや詳しく「解雇」について述べてみます。一端労働契約を締結したら、使用者と労働者の関係は永遠に継続するわけではありません。「解雇」は、労働契約関係を終了させる使用者の一方的な行為です。近時の就職難で、学生達はなかなか就職先が決まらず、悪戦苦闘のようです。「採用内定の取消」が相次いで、企業の身勝手さが社会問題となっていた最中の「採用内定の取消を解雇である」とした相当に思いきった最高裁の判断(最高裁昭54年7月20日判決(大日本印刷事件))がありました。最近になって、「採用内定」どころか「採用内々定」が、なされており、「採用内々定の取消」もあるようです。では、「採用内々定の取消も解雇」と判断されるのでしょうか。「解雇」を解説する初っ端からややこしい話をしたいとおもいます。
 最高裁は、「大日本印刷事件」において、「採用内定を解雇である」と一般論として述べたのではありません。当たり前のことですが、実際に4月1日に「就職」するまでには、そこまでに到達する「一連の手続の流れ」というものがあります。「求人募集」または「労働契約の申込の誘引」、「大卒予定者の応募」または「労働契約の申込」、「採用内定通知」または「申込に対する承諾」という手続の流れです。ここに言う「承諾」後に殆ど間を置かないで「就職」するような場合には、「内定」など考える余地はありませんが、「承諾」から「就職」までの間に相当長期の期間があるのが、実際のところです。いわゆる「就職協定」の縛りが存在しなくなって、「労働市場」は「早期求人」に踏み切っています。
 「採用内定」では、上記の手続「承諾」後の「内定通知書」の発送と受領、「確実に入社(就職)する旨の誓約書」の提出、「内定通知書記載の内定取消事由が発生した場合の取消に異議はない旨の文書」の提出がなされ、それらの後に折に触れての「会社訪問」、「会社やホテルなどでの研修」、「レポートの作成と提出」、「入社予定者の旅行」などのことがなされていた。学生に内定を蹴られて他社に行かれてしまうのを危惧した会社が、学生を囲い込んでしまおうとしたからであった。
 「内定」といっても、いろいろあって、ここに述べているような「拘束囲い込み型の内定」もあれば、「自社就職」も「他社就職」も卒業予定者の自由な選択に委ねる「自由放任型の内定」もあるだろう。わがままで世の中知らずの身勝手な学生を相手にしてのことであるから、「内定した者を自社に縛りつけておかないと」と考えると、「拘束囲い込み型の内定」になる。そこまでしておいて、「君はいらない」とやっただけでなく、その理由も主観的なもので「性格がブルー」だというのでは、裁判所は、酷い事例だと考えたのであろうよ。最高裁は、「採用内定」を「使用者に解約権が留保された始期附きの労働契約の締結である」と構成して、当該の解約権の行使を「権利の濫用」に該当するとしたのであった。
 [採用内々定」の場合もこれと同様に考えてよいかが、最近の問題である。最高裁も、事案が「自由放任型の内定」だったならば、上のように言わなかっただろう。重要な問題点は、確実に賃金を近く支払う意思をもって使用者が内定通知したかどうかであろう。「自由放任型の内定」に、そのような使用者の意思を認めるのは難しいのではなかろうか。ここで確認しておきたいことは、最高裁が開陳した「採用内定の法的構成」は、「採用内定」のすべてに通用する理屈ではないということである。