錚吾労働法

一〇八回 解雇④解雇の理由
 「あんたはもう要らない」とか「首だ」などと言われて、「そりゃ納得だい」などと言う珍しい者がいないではない。大多数の者は、「どうしてだい」と言って、その理由を聞きたがるものです。使用者が労働者を解雇するときには、必ずそうするための理由があるはずです。本当の理由は言えないから、差しさわりのない穏便な言い方で解雇の理由をつたえれば、そんなことは解雇されるような理由にならんと言って反論されるのが関の山で、問題をこじらせることになります。だから、使用者は本当の理由を言うべきです。何故に解雇されたのか解らないような解雇は、労働者にとっては、許しがたいことであるに違いありません。
 では、解雇の理由には何か特定のパターンのごときものが存在するのだろうか。女性に振られる理由も様々ですが、解雇の理由も様々で、まことに悩ましいものがあります。また人間の行動や性向には信じがたいものもありますが、解雇理由には思わずうなってしまうものもあるのです。では、その幾つかを見ておきましょう。
 ●経営上やむを得ない解雇
 ●勤務不良を理由とする解雇
 ●能力不足を理由とする解雇
 ●非協調性を理由とする解雇
 ●容姿を理由とする解雇
 ●上司への暴言を理由とする解雇
 ●資格喪失を理由とする解雇
 ●風紀上の問題を理由とする解雇
 ●配転拒否を理由とする解雇
 ●同僚への誹謗中傷を理由とする解雇
 ●労災被災労働者の能力低下を理由とする解雇
 ●住所虚偽申告を理由とする解雇
 ●同僚に対する恐喝・脅迫を理由とする解雇
 ●組合ビラ配布を理由とする解雇
 ●無断他社就労を理由とする解雇
 ●電算機データの抜き取りを理由とする解雇
 ●部下の横領行為を理由とする解雇
 ●労働者の多額債務を理由とする解雇
 ●会社の破産を理由とする解雇
 ●リストラを理由とする解雇
 ●信条に基づく行為を理由とする解雇
 ●政治的信条を理由とする解雇
 ●内部告発を理由とする解雇
 ●その他を理由とする解雇
 いくら挙げても限がないので、これ位にしておきます。解雇が有効なのか、無効なのかについては、上記の解雇理由を事例ごとに具体的に観察しなければなりません。当然のことながら、詳細な知識を得るためには、判例を読まねばなりません。その際特に重要なのは、事実関係を丹念に読むことです。その事実関係に則して、裁判官は、法規を適用して、有効・無効の判断に到達するのです。これを「法的三段論法」といいます。この三段論法がスッキリしているのが、優れた判断です。
 弁護士の皆さんの言い分に応接することもあって、お付き合いの文章を裁判官が書いている場合もあります。読み方が下手ですと、この部分を取り上げてワイワイ言う者はいますが、どうでもよいとまでは言いませんが、三段論法の流れの部分をよく読んで下さい。その部分を「判決理由」と言い、そうでない部分を「傍論」と言います。次から、具体的に解雇事例を観察してみましょう。