錚吾労働法

一〇九回 経営上止むを得ない解雇
 「経営上止むを得ない解雇」には、企業のある部門の閉鎖であるとか、人件費圧力の低減化、新技術導入による余剰人員の発生などを理由とする解雇が含まれる。いわゆる「整理解雇」と言われているものである。
「整理解雇」に関しては、「東洋酸素事件」(東京高判昭和54.10.29)は、①「解雇が止むを得ないものであること」、②「配転の余地がないこと」、③「人選が客観的・合理的であること」、④「協約などの人事条項の手続に沿っていること」を「整理解雇の4要件」であるとしている。
 どんな職場であっても「4要件」を充足しないと整理解雇が無効となるとまで、言っているわけではない。労働協約就業規則もないような小企業に、解雇手続を定めたその他の文書があるとも思えないし、業務が単一であるような会社の場合に、配転の余地があるかどうかは最初から考える余地はないだろう。また、従業員が1名しかいない職場もあるから、その場合には、人選が客観的・合理的であるかどうかを問題にする余地はないだろう。そうであるから、4要件は、「4要件説」とまで言えるものではない。企業の規模によっては、①ないし③が問題にされる場合もあれば、①のみが問題とされる場合もあろう。
 つまり、整理解雇は事案によって、事案に相応しい判断要素をふまえてその有効・無効が判断されるのであって、①から④までのすべてのフィルターを通さなければ、その有効・無効の判断ができないということではない。「4要件説」だの「3要件説」だのと言うこと自体が、誤りなのである。労働法で仕事をしている者達がこんないい加減なことをしているのは、まことに遺憾である。八百屋が店じまいするときに、ただ一人の従業員の大根売り場から玉ねぎ売り場への配転の可能性の有無を問題にしたらおかしいでしょう。
 裁判官は説を立てているのではなく、担当した当該の事件を解決に導くための着眼点を定時しているに過ぎない。解雇が解雇権の濫用のゆえに無効となるかどうかは、事案ごとの具体的な諸事情を総合的に判断するしかないであろう(ナショナル・ウェストミンスター銀行事件・東京地決平12.1.21)。
 「整理解雇」は、会社の生き残りをかけて「人員削減」するとか、「赤字部門の閉鎖」に踏み切らざるを得ないとかの理由によっていたり、銀行に「リストラを融資条件」にされたとの理由によっていたりする。従って、企業も安易な気持ちで整理解雇をするわけではない。困ってもいないのに、他がするから俺もするなどというのは、実際にそんなことを口走る経営者もいないではないが、論外である。
 放り出される労働者の事情を一顧だにせず、ただ強引に解雇するような「整理解雇」を裁判所は有効だとは言わない。民事再生手続に入るような場合であっても、強引なやり方は無効だといわれるのが落ちである(山田紡績事件・名古屋高判平18.1.17)。