錚吾労働法

一一四回 容姿を理由とする解雇
 他人(労働者)の容姿に難癖をつけて解雇するなんてことが、本当にあるのか。疑問に思う向きも、おられることでしょう。もう随分以前のことですが、民放の女性アナウンサーが、年齢が高くなり容貌も衰えたから番組を降板するよう言われたという事件があった。トウが立った女性アナウンサーでは、視聴率が取れないなどとも言われておりました。金さん・銀さんで視聴率は取れても、中途半端な年齢の女性ではとれないのか。おかしなことだと思いますした。
 他方、先輩の労働法の先生のご高説は、次のようなものでした。テレビのニュース番組であっても、スポンサーが買ってくれなければ生き残れるものではない。スポンサーは視聴率が高い番組にCMを流したいから、その番組を買いたいのである。アナウンサーも解説者も、さらには出演者も、そこでは番組商品を構成するものである。女性アナウンサーの容姿が衰えると、視聴率が落ち、番組全体の商品価値も落ちることになるから、降板させられる可能性を封ずるべきではない。
降板させられる可能性を肯定するにしても、解雇はいけないのではないか。先輩は、解雇なら駄目だよと言っておられた。この考え方は、容姿の衰えを理由とする配転は有効だとされる可能性があると言うのである。しかし、誤解してもらっては困る。一般論としては、容姿や容貌の衰えを解雇理由とするのには、やはり無理があるのである。男性アナウンサーが、「お前はハゲだから降板だ」とか、「解雇だ」とか言われるのだろうか。そうでないのであれば、
男女差別の実例ともなる話である。
 民放のテレビ番組の女性キャスターは、概ね個性的でキリッとしている。多分、放送局に雇用されておらず、フリーランサーなのであろう。放送のプロとして、容貌等と言えば許しがたい侮辱だと感ずるだろう。読み間違いが多くなったとか、スタジオ内移動事故があるとか、インタヴュー相手に失礼を行うなどのことがあるなどの客観的な事実があるのであれば、それを告げて、降板して欲しいと言えばよろしい。誰でも年齢を重ねるものである。視聴者も、テレビのキャスターが自分と同様に老けていく姿に好感をいだく時代なのである。それが、高齢化社会というものである。若いのばっかり出てきて早口で喋られたんじゃ、面白くねえや。
 テレビ放送界のことを言いすぎました。デパートで容姿がいけないから解雇だとは、言わないでしょう。太っているから解雇だと言いますか。言わないと思いますよ。解雇無効で、その上慰謝料を用意しなければいけません。イジメなので、注意しましょう。ただ、モデル業界のような、男性女性を問わず、容姿そのものを売り物にしており、モデル達もそれを受け入れているようなところでは、容姿の衰えが解雇理由になるかもしれません。しかし、その場合でも「お前は見苦しくなった」などと言えば、問題です。高齢化社会なので、立派に後期高齢者となった紳士や淑女
を馬鹿にすることとなるのと同様な会社の発言は、「社会的相当性」の点で問題となる余地もあるのである。