錚吾労働法

一一三回 非協調性を理由とする解雇
 優秀なのに「協調性」があって、仕事仲間から尊敬され、会社からも将来のエースだと評価されるような人物は、滅多にいるものではありません。しかし、優秀でもないのに自分では優秀だと「自己評価」し、他人を馬鹿にした態度でいる。そんな個性が勝ち過ぎて同僚から問題視されるような労働者は、逆に、結構いるものです。注意をすれば、「お前は何さまのつもりだ、馬鹿野郎」などと食ってかかってくる。あんな人とは一緒に仕事したくないと言って、退職してしまう労働者もいる。非協調性を理由とする解雇は、こんな事情があってなされるのです。
 尿意をもよおせばトイレに行って、用をたさねばならない。タクシー会社のドライバーが、運転手詰所の床に、あるいは注意した者のロッカー内に「放尿」を繰り返している。これは、「協調性」以前の「異常な行為」ですが、解雇して当然なのです。本人と代理人が解雇権の濫用だと主張したが、裁判所は認めなかった。これが解雇無効と判断されたら、世も末です。
 自分は「高学歴」で英語もできるが、周囲の労働者は中卒または高卒で無学だから話たくもない。今は山林労働者となっているが、作業が単純だからと仕事を馬鹿にしている。その他の山林労働者は、伐採作業で大怪我するのではないか、チェンソーの扱いが危険すぎると、気疲れしてしまう。「そこは危険だからどけ」と注意をすれば、「無学な輩とは話したくない」と言われてしまう。会社は労災発生を恐れ、また協調性がないとの理由で、解雇に踏み切った。
 医学部では成績優秀だったらしいが、いわゆるリピーターで入院患者への薬物投与などでのミスを繰り返していた。注意をすれば、注意した医師が身の危険を感じるような言動をする。チーム医療ができない。糖尿病患者への薬物投与量の件では、何回注意しても、患者が重篤な結果になっているのに、馬耳東風である。病院は、この医師を解雇することを決定した。病院は協調性の欠如を主張していたが、問いただすと、こんなことが分かった。
 これらの事例は、解雇が有効だと判断されることとなるでしょう。協調性が無いなどということが唯一の解雇理由である場合は、上の事例とは明らかな相違があります。セクハラを拒絶されたいけない上司が、その女性を協調性が無い女性社員に仕立て上げて解雇したなんてことがありました。こんな解雇は、許されてはなりません。協調性は、あまりにも軽い言葉です。協調性が解雇の唯一の理由であるときは、誰が言い出したかを含めて社内においてもよく調査しなければいけません。
 苛めて協調性が無いなどと言うのは、最悪のイジメです。このような解雇は、不法行為の隠蔽という意図をも疑わせるものであり、不法行為の上に不法行為を重ねるものです。こんな解雇が有効とされることはありません。
 政治的に周囲と協調出来ないことを解雇理由としてはなりません。政治的な信念は、周囲に合わせて変えられるものではありません。また簡単に変えたらおかしいでしょう。政治的に目ざわりだから、協調性が無いといってする解雇は、無効というばかりでなく、不法行為ともなります。