錚吾労働法

一一七回 風紀上の問題を理由とする解雇
 「風紀」なんて言葉は、若者は知らないだろう。辞書で調べてください。
 香り立つ春のような女御にわれを忘れ、心を奪われてしまったり、すがすがしい顔の君に心狂わしく夜も眠られずにいたり、短冊に和歌をしたためたり、琴をかき鳴らし、笛の音を「春日の森」に響かせながら心を通わせたりするんだ。これは、古の男女の作法である。不躾な直情愚行しか知ぬ君ら学生諸君の到底及ばぬ世界なのだよ。そんなわけで、少々みっともないことを言わねばならない。
 病院のボイラーマンが、女性患者の入浴時に不必要に浴室に立ち入ったり、穴から浴場を窃視したりし、注意されても反省すらしない。このボイラーマンの解雇は有効であるとされた(総合花巻病院事件・仙台高判昭58.1.18)。
 キリスト教による女性教育をおこなっている学院の英語担当専任講師の女性が、婚外子を出産した。学院は、これを学院の教育方針に反する、学生に悪影響をおよぼす就業規則の定める「教員にあるまじき行為」に該当するとして解雇した。この解雇は、有効であるとされた(大阪女学院・大阪地決昭56.2.13)。
 バス会社のバス運転手とバスガイドとが情交関係を結んだという事例では、解雇有効(ケイエム観光事件・東京地判平5.12.16)と解雇無効(東京高判平7.2.28)とに判断が分かれた。勤務外の職場外での情交であったが、社内で情交する合意をしたかどうかについての事実認定の相違が結論を左右したようである。職場内の情交が解雇理由となること、当たり前である。ところが、上司がセクハラ行為として職場の内外で女性を暴行する例が、個別紛争処理問題としてしばしば登場している。親告罪なので刑事事件化しにくいが、事実を夫に知られたくないとか、最初は合意の上での不倫であったとかの事情もあるようであった。仏教大学の大馬鹿門をくぐって反省しなさい。