錚吾労働法

一一八回 配転等拒否を理由とする解雇
 「配転するから行ってくれないか」。「合点承知の助だ」。こんな具合ならば、解雇問題は殆ど発生しない。配転や出向あるいは出張を命じられても、事情によっては、「よござんす」とばかりにはいかない。配転・出向・出張命令の有効性いかんの問題とも、この問題は関連している。相談されることがあるが、先ずは異議をとどめてから指定された所へ移動しなさいと助言します。行かなければ業務命令違反で、解雇される可能性があるからです。
まず確認しておきたいことは、配転命令、出向命令、出張命令がいずれも無効であるときには、これらの命令に従わなかったことを理由とする解雇もまた無効と判断されるということである。解雇する理由が無い解雇となってしまうからである。
 これらの命令が有効なときには、労働者は、原則としてそれらの命令を拒否することは出来ないであろう。配転、出向、出張の内、出向は、労働する企業または労働し所属する企業の変動を伴うので、労働者の労働生活や私生活に大きな影響をあたえる可能性がある。また配転の場合であっても、同一事業所内配転もあれば、異なる、時として遠隔地の事業所への配転もあり、労働者の労働生活や私生活への影響は少なくはない。出張の場合には、出向や配転の場合に比べ、移動や移動期間の点で、ルートセールス考えれば分かると思うが、決して楽などとは言えない。
 出張修理命令をいったんは受け入れた工員が出張日直前に出張出来ない旨を会社に通知して、「日本のうたごえ全国大会」に参加した労働者の(懲戒)解雇は、有効とされた(水戸地判昭46.3.11)。出張命令の拒否は、かっては当然のごとくに業務命令違反とされたが、業務の範囲を明確化することによって、かかる紛争を防止することが出来よう。出張であっても、同一社内出張、取引先出張、応援出張、海外出張など様々であり、出張中の業務も通常業務から危険な業務まであって様々であるから、命令に応ずべき出張であるかどうかを判断すべきである。漁船に出張して缶詰製造機の調整作業をせよという命令には、有効判断出来ないだろう(京都製作所事件)。
 労働者が配転に同意していたが、その妻の新たな職探しや住宅に対する不安から神戸から岐阜への配転拒否の事例では、会社が就職先のあっせんや住宅の提供をしており、拒否すべき理由が無いとされ、配転に応じないことを理由とする解雇は有効とされた(川重事件・大阪高判平3.8.9)。配転に関しては、家族に著しい負担を強いる結果となるかどうか、配転が労働契約の内容として合意されていたかどうか、労働者の職業上の利益を害することなならないかどうかなどを総合的に考慮して、その有効・無効が決せられる。結局は、「配転に業務上の必要性が存在し、家庭生活上の不利益も配転によって通常甘受すべき程度のものならば、配転は有効」であり、従わない労働者の(懲戒)解雇も有効だというべきだろう(最判昭61.7.14)が、その場合でも懲戒解雇、普通解雇の選択の問題や、その他の処分の選択の可能性の問題も頭においておかねばならない。
 転籍は、労働契約を解消したうえ、転籍先企業との間に労働契約を結ぶということだから、使用者が一方的に命令出来るものではないだろう。転籍には、「労働者の同意」を要するというべきであろう。従って、転籍出向命令拒否を理由としてなされた解雇は、無効となる。「恋の片道切符」じゃないが、労働者が会社に転籍の仲人をしてくれというので、話をまとめて無事転籍出向したなどという例には、お目にかかったことがないと言ったら、少なくとも「グループ企業間だったらあるんだよ」という人がいた。これは、「労働者の同意」じゃなくて、「会社の同意」がないと出来ない話です。この世の中広いんだよ。
 配転・出向の判例は随分たくさんあるから、各自判例集を読まなきゃ駄目ですよ。