錚吾労働法

一二五回 解雇の承認
 使用者が労働者に対する解雇の意思表示に労働者が不当解雇であるとか、違法な解雇であると異議を述べることがある。しかし、他方、労働者が予告手当を受領したり、退職金を受領したりしたら、解雇を承認したことになるのかという問題が生ずる。
 この問題の難しさは、解雇通告された労働者に賃金が支払われないので、生活に窮することとなる労働者が予告手当や退職金を受領してしまうことがあったり、労働組合が解雇反対を言ってはくれず、予告手当や退職金を受領するように労働者に助言した結果そうしたということがあるということである。労働者が解雇される理由がないと言って予告手当も退職金も受領しない場合に、使用者はこれらを供託することがある。労働者がこの供託金を受領することもあろう。また、給与の労働者の口座振り込みと同様に、これらを口座振り込みしたが、労働者がこれに何も言わないということもあり得る。これらの場合に、労働者は、使用者の解雇の意思表示を受け入れて、解雇を承認し、争わない意思を表わしたこととなるのか。解雇の承認として問題となるのはこのような場合であり、これを肯定するときには、裁判所は解雇無効の訴えを退けることとなるので、労働者は安易に受領しないようにしなければならない。
 受領したのは労働者の真意ではないという理屈立てで解雇の承認の使用者がわの主張を退けることができるかどうかは、微妙であろう。予告手当などの受領行為は、労働者が明示的に解雇を承認するとの意思表示をしなくても、裁判所では黙示の解雇承認の意思表示したのだと解される余地がある。
 解雇の意思表示は、使用者の一方的な意思表示たることに本質がある。そうだとすると、解雇の承認なる理屈は、実質的には労働契約の合意解約の問題であったり、解雇を争わない旨の合意の成否の問題であったりするであろう。そうだとすると、労働者は、不当解雇と言いたいのであれば、不当解雇によって支払われなくなる賃金として受領するとか、解雇無効判決の暁には使用者が支払わなければならなくなる賃金と相殺する旨の意思を明確にしておかねばなるまい。
 解雇の承認は、解雇有効の場合には無用な議論であるし、解雇無効な場合には無効行為の有効行為への転換というおかしな理屈となってしまうから、よくよく考えてみれば、インチキ臭い議論なのである。判例は多々あるが、真面目に応接したくない議論である。