錚吾労働法

一二六回 解雇手続①労基法19条の解雇制限
 労基法19条の解雇制限は、所定期間中の解雇を禁止しているが、この解雇禁止には普通解雇と懲戒解雇の区別がない。労基法19条は、従って、懲戒解雇をも禁止していると解すべきである。治療期間または療養期間中および治療後または療養後の禁止期間中に解雇の効力を生じさせようとする解雇の意思表示は、無効と解するほかはない。他方、解雇禁止期間満了後に効力を生ずることとする解雇予告は、禁止されているわけではない。従って、解雇禁止期間中の解雇の意思表示の総てが無効となるわけではないので、注意を要する。
 労基法19条の解雇禁止は、業務上の疾病または受傷に関するものである。私的な疾病や受傷の治療期間は、本条の解雇禁止期間ではない。私的な疾病が業務によって増悪するようなケースでは、私的疾病と業務上疾病とが混合していることになる。この場合にも、労基法19条の適用がある。治療行為の継続が医学経験的に業務上の疾病が治癒する程度に達しているのに、なお治療を必要とするのは私的疾病にかかるものと言える場合があるやもしれない。かかる場合に該当するか否かは、(産業)医師の診断に従うべきであろう。医師の診断しだいでは、この場合、解雇禁止期間が満了することになる。
 もはやこれ以上治療する必要が無いと医師が判断した時点においても、労働能力が回復していないことがあろう。障害が残るという状態である。この場合も、医学的には治癒した状態である。治癒は、解雇禁止期間の満了をも意味する。かかる状態にある労働者の解雇に関しては、障害労働者の労働能力の残存の程度、会社内における働き場所の確保の余地の存否、障害者雇用の実績などを考慮する必要があろう。止むを得ず解雇にいたる場合、労災補償によって救済されることとなる。症状が固定し、治癒と判断されたならば、最早労基法19条の解雇禁止は及ばないこととなろう。
 労基法19条の「休業」は、1労働日当たり数時間であっても差し支えない。例えば、午前中の通院治療である。この場合も、休業後30日経過しなければ解雇できない。なお休業後30日経過前の解雇が、30日経過後の解雇として評価されることがあるかという問題があるが、無効な解雇を有効な解雇に転換することは出来ないと解する。なお、使用者の安全配慮義務違反なる債務不履行責任または不法行為責任の追及は、この問題とは関係が無い。この安全配慮義務違反を根拠とする損害賠償請求は、別途なされるべきものである。