錚吾労働法

一二七回 解雇の手続②労基法20条
 使用者が労働者を解雇するときには、少なくとも30日前に「解雇予告」(「予告解雇」)するか、さもなければ30日以上の平均賃金(「予告手当」)を支払って「即時解雇」することになる。この「解雇予告」と「予告手当」の手続は、労基法21条の適用除外に該当しない解雇の手続を定めたもので、その趣旨(法意)は、労働者を解雇の経済的ショックを和らげ、再就職活動をしやすいようにすることにある。
 この労基法20条の趣旨からすると、法所定の適用除外例(労基法21条1号ないし4号)に当たる場合だけでなく、ここに指摘するケースにも適用されないことがあろう。
 A社がB社に吸収される場合を考えてみよう。この場合、A社の労働者の全員が解雇され、その翌日にB社に全員雇用されるのであれば、労基法20条の趣旨が没却されることはないので、労基法20条の適用は無いとしてよいであろう。また、同様の場合にA社とその労働者の全員が個々に労働関係を終結させる合意解約を締結するとか、あるいは労働者全員がA社に対して退職通知するという手続をすれば、労基法20条の適用はありえない。
 労基法20条の趣旨を没却し、悪用に徹する者が稀にではあるが存在する。個別紛争調整の場面でちょくちょくあることだが、働く意欲はなく、職場にトラブルを率先して引き起こす労働者が、予告手当を使用者に払わせる目的でのみ、就職し、解雇されるのを繰り返すのである。「またあんたか!ワシん所に来すぎやないか。真面目になってくれよ。予告手当の請求を取り下げて帰りな!」と言わざるを得ない場合があるのです。面接時の弁舌は淀みなくさわやかで、絹の光沢の背広を着た紳士なのだが、心根がよろしくないのである。労基法20条は、このような者を助けようとはしていない。
 解雇予告手当を支払った解雇が無効と判断されれば、使用者は、賃金を解雇が無かったものとして遡及払いすることになる。この場合、使用者は、遡及払い賃金総額から解雇予告手当相当額を控除してよいかという問題が発生する。控除できないと解する。使用者は、遡及払い賃金の総額を全額払いの原則に従って支払うべきであり、予告手当の返還を別途請求するべきであろう。ただし、予告手当支払いの限度で賃金支払義務が消滅するとの意見もある。
 賃金と予告手当の負担を軽減するため、解雇予定者の賃金を減額したうえで予告手当を支払うような例もあるだろう。使用者側にそうせねばならない経営上切迫した事情があり、かつ賃金減額の時期と予告手当の支払いの時期とが接着していない場合以外は、予告手当の減額支給は認めるべきではなかろう。この2要件を要求しないと、労基法20条の趣旨が、破壊されてしまうだろう。
 会社の寮に入居している労働者の解雇の場合に、退寮時に予告手当を支払うという具合に条件を付すことができるかという問題もあろう。かかる条件の付与は、許されないであろう。予告手当の支払いと退寮問題は、無関係な問題であるだけでなく、予告手当の趣旨を害することとなるからである。
 予告手当を支払えという個別労働紛争処理担当者の見解は、行政(取り消し)訴訟の対象となる処分ではない。労基署長の同様の勧告も、同様である。社労士の方の中には、行政訴訟を提起するなどと言う者もいないではないが、不勉強のそしりをまぬかれないだろう。