錚吾労働法

一二八回 企業の移転と解雇①
 戦後最高の円高、高賃金カのデフレ、大震災、若者の理科系離れ、技術水準維持の危機等など、日本経済のファンダメンタルズは、決して宜しくない。こうした中で、情報開示の不徹底によって、政府およびエネルギー関連企業の信頼性もゆらいでしまった。とりわけ電力買い取り政策は、電力ひとくくりで、良質電力と粗悪電力の区別すらしないから、人口減少を考慮しても、電力供給の安定性を阻害しかねない。また、東京直下、東海、東南海、南海などの巨大地震がいつ発生してもおかしくないなどと、どっかの大学の先生方が言い、それをマスコミだ大々的に報道しているのであるから、企業を安全な場所に移転してしまおうという考え方が勢いを持つことになる。特に、これらの想定されている地震が全部でなくても連動して発生すると、今回の地震の数千倍の被害になるなどと大学の先生方に言われれば、起業家は、インフラが良くなくても、どっかの国で生産したり、情報管理をするほうが良いだろうと思うに違いない。
 円高の進展は、震災後の復興特需の発生で建設・土木・製鉄・コンクリート・砕石・採石・採砂・生コン・木材伐採製材・金融・保険等などが活発に動き出すように、外国からは、見えるのであろう。円高の急激な進行は、アメリカ経済、ヨーロッパ経済の先行き不透明のみに帰すものではない。しかし、われわれの目からすれば、日本政府も都道府県等の地方政府も、借金しなければ復興特需どころではない。政界には、リーダーがいない。民主主義をかくも衆愚政治化してしまった国の政治家達は、民主主義国の敵である。こんな国で企業活動を継続するのは、難しい。若者は目覚めよ。海外へ出て働きなさい。中学校から外国事情を必修科目とするなどの教育改革も、必要である。学生と大学教員の国内及び国外でのモビリティーを高めるべきである。
 しかし、現実はこんな長期的な悠長なことを言っておられないだろう。連結決算で辛うじて黒字の企業は、国内単独決算では大赤字に相違ないのだ。決算レヴェルのみで判断すると、労働者を雇用し、生産する力が弱くなっているのである。大企業とその系列下の企業群は、いまそのような危機に直面している。言いたくはないが、トヨタのような大企業が生産の海外シフトを進めると、労働者の一部もそれにつき従うことになろうし、あの悪評だった外国人技能研修実習制度の大企業による活用がすすむだろう。この制度は、国外移転する企業にとっては、促成の現地労働者の育成にはもってこいの制度である。この制度は、かかる視点から再評価されるべきである。
 企業の生産活動に国境が無いことは、古い話で恐縮だが「パリは燃えているか」のドゴール打倒運動で経験済みである。工場の海外シフト以前に資本の海外シフトが発生するだろう。為替管理制度は、今でも、崩壊寸前である。資本のより一層の海外シフトは、いったん勢いがついてしまえば、為替相場の変動に一喜一憂するだけでは済まないファンダメンタルズのさらなる悪化を招来することとなろう。25歳までの若者の失業率の上昇、貸出資金の委縮、投資意欲の減退、株価の下落、国債の未消化と金利の上昇、不動産価格の下落などである。