錚吾労働法

130回 外国で解雇①
 「やってやるぞ」と勇んで外国へ行く労働者、「しゃあないから行くか」と渋々外国へ行く労働者。様々でしょう。本社から呼ばれて日本で解雇される労働者、現地で解雇される労働者。これも様々です。日本の解雇制限法は、判例によるものをも含めると、かなり精緻に出来ており、国際的に観察しても労働者の保護に熱心な法です。外国へいくと、その国を立派な国に錯覚させるために法律が公布されていて、およそ施行・適用など考えていないところもあります(「デコレーション法」または「コスメチック法」)。自分がどんな国へ行って仕事をするのか、自分の同僚となる現地の労働者はどんな人々なのか、その国で大切にされている宗教的・文化的価値とはどのようなものかなどを徹底的に調べなきゃいけない。会社も一所懸命調べないといけないが、労働組合、労働者も調べないといけない。工場建ててみたら停電が頻繁で、何ともならないなんてことになったら、会社も労働者もみじめですよ。
 さて、外国にまで行って働く以上は、会社との間で最低限取り決めておかねばならないことがある。昔は「法例」と言いましたが、今じゃ「法の適用に関する通則法」なんて、この前も言おうとして舌噛んじゃった法律があります。会社と労働者との間で「準拠法」に関する取り決めをしておきましょう。「準拠法」というのは、日本人労働者がA国で解雇されたとして、その解雇の有効性を争ったり、地位確認や賃金仮払いを求める訴訟を提起するときには、日本法によるべきか、それともA国法によるべきかという問題です。これを当事者間で決めておくことを、「準拠法の選択」といいます。日本人労働者は、日本法を準拠法としておくのが良いでしょう。これを決めておかないと、「行為地法」が準拠法となります。「行為地法」とは、解雇の意思表示がなされた地の法律という意味です。
 日本人労働者が中国で解雇されたという場合、会社と労働者が日本法を準拠法とする旨の合意をしておれば、日本法による解決がなされますが、合意していないとか中国法を準拠法とする旨の合意があるとかの場合には、中国法による解決がなされることになります。後者の場合、日本の裁判所で争われるときにも、裁判官は中国法を適用しなければなりません。裁判地の法を「裁判地法」と言いますが、この場合、裁判地法(日本法)の適用はありません。ただ、争いを予め想定して総てについて準拠法の合意をしておくのは困難です。例えば、賃金仮払いに関しては合意がなかったとして裁判地法(日本法)が適用されるということもあり得る。
 国際私法は、国際法ではありません。適用法規の決定に関する日本法です。日本企業の労働者が外国で働くよう業務命令されて外国で働いているときに、準拠法に関する合意があったか、なかったかという基準だけで適用法規(準拠法)を決定することに関しては、疑問を禁じ得ない。日本人労働者の法的保護の観点からは、日本法によるという推定的合意の存在を考えるべきではなかろうか。日本人は日本法の衣服(鎧と言ってもよいが)を着て外国へ行くものだと、思いますね。労働国際私法という学問が未熟なので、日本法と外国法の相違、企業や労働者にとっての有利不利などをハッキリさせることができません。裁判地も合意で決定できますから、どの国で裁判したら有利かなどは、企業や労働組合ナショナルセンターの法務部ではかなり調査されていると思います。