錚吾労働法

一三一回 外国で解雇②
 為替相場などで日本だけでは苦しい日本企業が中国に行って生産するようになる。よく聞く話です。日本で期間の定めなき労働契約を会社との間で締結した労働者が、中国工場勤務となり、現地で解雇される場合を考えてください。これは国境を越える配転だから、労働者は同意して中国に行ったと思います。あるいは、異議を留めつつ中国へ行ったかも知れません。それはともかくとして、ここでは労働者は中国で解雇されたのです。
 解雇が有効か無効かは、日本の労働契約法18条にその判断基準が示されています。準拠法がこの条文ならば、これによって解雇の有効・無効が判断されます。多分、労働者は、日本の裁判所に訴えを提起するでしょうが、裁判地合意がなされていなければ、中国の裁判所に訴えを提起してもよいのです。中国の裁判官も、日本の労働契約法18条を適用して事案を解決に導かねばなりません。
 日本人労働者が中国で解雇され、中国の裁判所に解雇無効訴訟を提起する場合、中国の労働契約法によって「雇用単位」による労働契約の解除解が許容される場合にあたるかどうかに従って判断されることとなります。雇用単位による労働契約の解除が許容される第1の場合は、次のとおりです(中国労働契約法39条)。
 *試用期間中に採用条件を満たさないことが証明されたとき。                        *雇用単位の規則制度に著しく違反したとき。
 *著しい職務怠慢、不正利得によって雇用単位に重大な損害を与えたとき。
 *他の雇用単位とも雇用関係を持って、雇用単位の業務遂行に重大な影響を与え、その是正を拒んだとき。
 *詐欺脅迫によって雇用単位に労働契約を締結させたとき。
 *刑事責任を追及されたとき。
 第2の場合は、雇用単位が、労働者に対して30日前の書面による通知するか、または1カ月分の賃金を支払って労働契約を解除することができる場合です(中国労働契約法40条)。
 *労働者が疾病にかかり、または業務外に負傷し、所定の治療期間経過後も原職業務を行うことができず、別途提供された職種をも行うことが出来ないとき。
 *労働者に業務遂行能力が無く、研修または職種の変更後も業務遂行能力がないとき。
 *労働契約締結時に締結の根拠としていた客観的状況に重大な変化があって、労働契約を履行することが出来ないか、契約内容変更のための協議が整わないとき。
 第3の場合は、人員削減の場合で、やや複雑な書き方になっています(中国労働契約法41条)。
 次の各場合に該当する場合において、20人以上の人員削減、または20人未満であっても企業の全労働者の10%以上の人員削減が必要なときには、雇用単位は30日前に工会または全従業員に説明し、その意見を聴取した後、当該人員削減計画を労働行政部門に報告して、人員削減をすることが
できる。
 *企業破産法による企業再編のとき。
 *生産・経営に著しい困難が生じたとき。
 *製品・業種の変更、重要な技術革新・経営方式調整の場合であって、労働契約の変更後もなお人員削減が必要な
  とき。
 *その他、労働契約締結時に締結の根拠としていた客観的経済状況の変化のため労働契約を履行できないとき。
 中国で「あんたはもう要らない」と言われた労働者は、自分が「もう要らない」と言われている根拠を確かめなければなりません。中国労働契約法39条ないし41条に定められている労働契約の解除または人員削減のそれぞれのどの部分に基づいて「要らない」といっているのか、著しく違反したという規則を開示させなければならないし、誰だ業務遂行能力が無いと判断したのか等など、ときには工会(内外無差別主義で動いているかどうか不明)に援助を求めることも必要となるでしょう。刑事事件で責任追及といっても、警察で取り調べられるだけでも契約解除なのかどうか不明なので、注意しなければなりません。
 中国は、「法治主義」へと舵を切ったと言っても、「人治主義」から脱却してしまったわけではないので、中国人のような「主張のたくましさ」を身につけるようにしましょう。賃金支払いをしないのを抗議したら明日から来るななどという酷い目に中国人が合わされている国ですから、そんなことはさせないという迫力も必要になるかもしれません。何でも大げさに言う国なので、能力が無いから要らないと言う場合に、どんな酷いことを言われるか分かったものではありません。