錚吾労働法

一三二回 外国で解雇③
 外国まで働きに行って現地で解雇されるようなことは、当人にとっては不本意なことと思います。引き続き準拠法が中国法で、裁判地も中国という前提で話を続けましょう。  
 A 試用期間中の労働契約解除の制限
 勿論ですが、労働契約の解除または人員整理によって「あんたはもう要らない」と言われたとしても、雇用単位が労働契約を解除出来ない場合や人員整理すろのが宜しくない場合もあります。日本的表現では解雇制限です。先ず、試用期間中の労働契約の解除は、原則禁止となっています(中国労働契約法21条)。また、試用期間の再設定も延長もできません(同法19条)。試用期間は、労働契約期間によって異なりますが、2カ月未満の期間のときには、試用期間の定めをすることは禁止されています(同法19条)。試用期間中の労働契約の解除は、39条・40条1項・2項に該当する場合にのみ可能である。雇用単位は、当該労働者に対してその理由を説明しなければならない。説明しないと、試用中の労働契約の解除が無効となるのか、有効だが義務違反が別途生ずるに過ぎないのか明らかではありません。説明義務は、私法上の義務(債務)なのか、公法上の義務(履行を労働行政部門に届出る義務)に留まるのかは、明らかではない。
 B 40条・41条の労働契約の解除または人員整理の制限
 [人員整理の場合] 優先的に人員整理の対象外とされる労働者が、法定されている。 
 *期間の定めのある労働契約を締結している労働者の内、雇用期間の長い者。
 *期間の定めのない労働契約を締結している者。
 *世帯に当該労働者以外に就労している者がおらず、扶養すべき老人または未成年者がいる者。
[労働契約の解除の場合] 次のときには、労働契約の解除は禁止されている。
 *職業病に罹患し易い作業に従事する労働者が離職前の健康診断を受診していないか、または職業病の疑いのある  労働者が診断期間または観察期間にあるとき。
 *職業病または業務上の負傷によって、労働能力の全部または一部喪失が確認されているとき。
 *疾病または業務外負傷により所定の医療期間中のとき。
 *女子労働者が妊娠期間、出産期間、授乳期間にあるとき。
 *満15年以上勤続し、定年年齢まで5年未満のとき。
 *法律、行政法規で定めるその他の場合に当たるとき。 
 以上見たように、中国労働契約法は、労働者の解雇についてかなり詳細に規定しています。中国人の女性労働者が、日本で就職したのだが、妊娠したことを職場で自慢して話し、社長にも言わせろなどと主張するのも、中国法に書いてある「妊娠期間、出産期間、授乳期間中の女性労働者」に対する優遇を得たいためだと理解せねばならないでしょう。逆を言うと、日本人の女性労働者も中国では妊娠自慢を会社に対してしていないとダメだということさ。、労働契約の解除のときに初めて妊娠と言うようでは、中国では救われないこともあり得るのです。「権利の主張はいつも声だかに言うべし」という法文化の国なので、「郷に入ったら郷に従う」のがよいでしょう。