錚吾労働法

一三三回 外国で解雇④
 労働契約の解除、人員整理の場合に、中国労働契約法には「経済補償金」と「賠償金」の制度があります。
 「経済補償金」は、次の場合に雇用単位により労働者に付与されることになっている(同法46条)。
 (1)中国労働契約法36条による労働契約の解除(「合意解約」)。
 (2)同法38条による労働条件の不履行等を理由とする労働者による労働契約の解除(同法38条1項以下)。
 (3)同法40条(前述)、同法41条1項(前述))による労働契約の解除。
 (4)同法44条1項による労働契約の終了(「労働契約の期間の満了」)。
 (5)同法44条4項(「雇用単位に対する破産宣告」)による労働契約の終了。
 (6)同法44条5項(「営業許可の取消や解散」)を理由とする労働契約の終了。
 「経済的補償」は、上の場合に支払われることになっているが、その額は、勤務月年数(法文では勤務年限)によって定まる(同法47条)。
 (1)6月未満のときは、月額給与の半額(「月額」は、労働者の12カ月間の平均月額のことである)。
 (2)6月以上1年未満のときは、月額給与の1カ月分。
 (3)満1年ごとに月額給与の1カ月分で、支払い年限は12年を超えない。
 (4)前年度の職工平均月額の3倍を超えるときは、3倍を支払う。
 「賠償金」は、雇用単位が労働契約法に違反して労働契約を解除し、または労働契約を終了させたときに、本来ならば雇用単位は労働契約を引き続きりこうすべきであるが、労働者が最早それを望まないとか、雇用単位が労働契約を履行できなくなっている場合に、雇用単位が労働者に支払わなければならないものである(同法48条)。その金額は、「経済的補償」の金額の倍額となっている(同法87条)。
 中国の財界は急速にその存在感を増しつつあるから、中国企業が中国で活動している日本企業や日本企業の工場などを買収する機会が増加するだろう。そのような場合に、日本人労働者が引き続き中国企業に留まって労働することも増加するだろう。労働する以上は、自己の利益を守る手だてを日ごろから考慮しておかねばならない。日本企業の日本人労働者の場合でも、解雇事例がいつも適法妥当に行われているわけではない。この点は、法治主義の確立を急いでいる中国ではどうなのか。大同小異、似たり寄ったりなのか。最低限、ここで記している程度のことは知っておくべきであろう。
 ただ、中国労働契約法は、急いで策定されたところがあって、プロによって作られたもののようには見えないのである。また、実際にどの程度まで行政法規等の定めがあって、この法律とどのような関係にあるのか。行政法規が優先することがあるのか。共産党のその時々の経済政策や産業政策との関係では労働契約法は、どのような適用順位になるのか。場合によっては、特定国の企業、または特定の企業に対する行政的監督や査察のために用いられることはないのか。日本企業との間で合意した準拠法としての日本法は、買収後にもなお効力を有するものと人民法院は認めるのか。言いだすときりがないのである。