錚吾労働法

一三四回 外国で解雇⑤
 外国籍の航空機や船舶は、日本の空港や港湾にあっても、その航空機内、船舶内は外国領内であるとされています。ドイツの航空会社に雇用されている日本人乗務員がいるとして、ドイツ国内発信の解雇通告を日本領空を飛行中の機内で受信したとしましょう。解雇通告のやり取りは、この場合、ドイツでされたことになります。特に準拠法を日本法であると合意していれば別ですが、そうでなければ、解雇無効を争う準拠法はドイツ法となります。ドイツの解雇制限法は判例を含めてですが精緻にできており、労働裁判所の裁判官達も法律家としての実務経験が豊富なので、訴えたのが日本人であっても、ドイツ人が訴えたときと同様に扱ってくれるでしょう。
 日本の裁判官も高度に鍛え上げられていますから、ドイツ法が準拠法であっても、ドイツ法の正確な知識に従った判断をしてくれるはずです。ドイツの労働裁判所は、職業裁判官と労使団体出身の裁判官(素人裁判官)の3者構成です。最近、この制度は日本の労働審判制度と同じですかという質問を受けました。似てるように見えますが、全っく違います。ライエンリヒターなるドイツ語は、素人裁判官と訳されていますが、使用者側と労働者側から選出される裁判官ですが、それぞれの立場から労働法務を実際に行ってきた専門家です。解雇の有効・無効の判断で職業裁判官とはんだんを異にするこいとは、殆どないのです。労働審判の裁判官でない審判員は、使用者側、労働団体側の利益代弁者的なところがあって、職業裁判官とそん色ない専門知識を有するドイツの素人裁判官と比較することはできないでしょう。
 準拠法を日本法としたときに、労働審判をも含めて準拠法選択で合意しているならば、労働審判が不調な場合に訴訟手続きにはいることになります。ドイツ法を準拠法としたときには、介護制限法に従うことになります。日本の裁判所が解雇制限法を適用することとなる場合、ドイツの労働裁判所の判例の知識も必要になります。総合的な調査が、必要になりますから、弁護士の先生方は、東大の文献センターに出かけてください。必要な資料の総てが揃っています。また大学の法学部教員でドイツ労働法に詳しい者に、いろいろ質問してみてください。ドイツ労働法に詳しい教師の研究室に行けば、有益な文献が揃っているとおもいます。訪ねてみてください。