錚吾労働法

一三六回 ヨーロッパ共同体法による解雇規制①
 労働者の国際異動や国境を越える就職・就労が増加すると、自分にとっての適用法、現行法はどういうものかを常に意識しなければなりません。日本で日本人が働くときには、日本の労働法をそんなに意識していないと思います。日本の自動車会社の英国工場で日本人が働いている場合を考えてください。準拠法を英国法およびヨーロッパ共同体法とする合意があるとします。この工場のリストラのため、従業員を解雇せざるをえないといわれ、君もその中に入っていると言われたとしよう(実話じゃないから誤解すんなよ)。解雇の有効・無効を法廷で争うこととなったが、この場合、どんなことを知っておく必要があるのか。ここでは目先を変えて、ヨーロッパ共同体法の法規制について以下、要約しておきます。
 雇用政策によって雇用を維持し、安定した経済生活、家庭生活、文化生活を労働者に継続的に提供できれば、大変結構なことです。共同体の基本文書を読めば、こんなことが随所に書いてあります。旧社会主義国を含め、完全雇用の目標はいつでも、どこでも永遠の目標で有り続けています。完全雇用と言わないまでも、雇用の継続自体も達成困難な目標となることが多いのです。この自動車会社も、労働者の解雇などしたくないに違いないのです。英国で生産活動する企業は、英国企業であろうとなかろうと、共同体法に敏感でなければいけない。無論、大企業ならば、そんなことはお節介無用な事柄に違いないのですが。
 設例は、いわゆるリストラによる大量解雇です。日本人労働者も被解雇者の内の一人です。リストラによる大量解雇の典型例は、工場閉鎖です。このような典型例は、これまでになかったわけではありません。化学会社のAKZO事件を思い出す学生は、相当な勉強家だな(重要事件なので、各自調べなさい)。AKZOのような多国籍大企業が解雇コストがかからない国々で約5,000人も解雇したんだから、魂消てしまったと思うよ。共同体も構成国ごとにバラバラな解雇規制では、共同体とは名ばかりで、労働者の自由な移動なんぞは絵に画いた餅になっちゃうから、解雇規制の統一を図らなくっちゃということになった。1975年2月17日の「大量解雇に関する構成国の法規の調整のための指令」は、そのために出来たものさ(何が書いてあるかを各自において確認してちょうだい)。これは、1998年4月20日に改正されています。ここでは「大量解雇」の定義をハッキリしときましょう。
 「大量解雇」というのはだね、「使用者が、個々の労働者には存在しない一つまたはそれ以上の理由に基づいて行うもので、かつその際に構成国を選びだして、被解雇者数を決定する解雇」なんだよ。この意味の解雇は、次のような括りがあるから注意しよう。
 ① 20人以上かまたはすくなくとも100人以下の労働者を雇用する企業での少なくとも10人労働者の解雇
 ② 少なくとも100にん以上かまたは300人以下の労働者を雇用する企業での少なくとも労働者の10%の解雇
 ③ 少なくとも300人の労働者を雇用する企業での少なくとも30人の労働者の解雇
 ④ 何人の労働者を雇用しているかに関わらず、少なくとも20人の労働者の解雇
 ①から④の括りは、解雇予告期間の相違によります。①カラ③までについては、使用者は、少なくとも30日前に解雇する旨を労働者につげなければなりません。これに対して、④については、使用者は、少なくとも90日前に解雇する旨を労働者に告げなければならないのです。解雇予告する場合に注意せねばならないのは、日本法のように単純に出来ていないことです。
 期間付き労働契約が、期間の満了によって終了するときには、この解雇規制は適用がありません。また、契約が締結された目的の達成によって終了するときも、同様です。しかし、裁判所による企業廃止決定の場合には、適用があります。この点は、要注意ですぞ。