錚吾労働法

一三八回 ヨーロッパ共同体法による使用者破産時の賃金支払い
 企業は、永遠のものではありません。アメリカ人のように、企業の平均寿命・平均余命なんてどうでもよいことに一喜一憂はしませんよ。だがじゃ、寿命が尽きる企業のまあ多いこと。つい最近も、「もうアカン!11月で閉めるるしかない」なんて、悲観的な話を聞いたばかりですぞ。しかし、使用者が支払い不能(破産)になった場合に、労働者をどのようにして保護するかは、極めて重要な課題です。
 使用者が払い不能な状態に陥ったときには、労働者に対する特別な保護が考慮されてしかるべきでしょう。こんなことは、当たり前のことでクドクド言う必要もないかもしれないな。特別な法律による保護が無くたって、労働者の賃金支払い請求権は、その他の債権者の請求権と平等な扱いを受けるものである。しかし、その他の債権者の請求権と平等だということは、労働者の賃金支払い請求権は、不利に扱われることもなければ、有利に扱われることもないというだけのことで、特に得るものがないということでもあるな。それじゃまずいんじゃないかというのが、指令88/987なんだね。「ヨーロッパ共同体は、ヨーロッパ社会共同体である」というモットーを、君達は、ヨーロッパ法の講義で聞いただろう。
 この指令は、共同体の構成国に「賃金支払い保証制度を作らにゃいかんよ」と言っているのさ。使用者が支払い不能になったときに、未だ支払われていない賃金支払いを引き受ける組織が、賃金支払い保証制度というわけなのさ。共同体の構成国は、法律による使用者の社会保険への支払いを、指令の適用領域に含めないことができることになっているようだ。これは、どういうことかな。法律所定の労働者の社会保険のための使用者の支払いに対しては、支払い保証制度を設けなくてもよい、という意味じゃないのかな。日本法でも、同様な場合の特別な法的規律があるから、注意しよう。