錚吾労働法

一三九回 有期労働契約の規制は必要か①
 有期労働契約は、期間の定めのある労働契約と言ってきたものです。
 ① 有期労働契約は、特定の仕事が一定期間存在し、かつその期間の満了時にはその仕事が無くなるであろうという場合を想定し、その間その仕事のみを行う労働者との間に締結する労働契約であるという場合があります。 
 ② 有期労働契約は、企業の雇用コストの増大を防ぐために、比較的に短期の雇用期間設定する労働契約であるという場合があります。
 ③ 有期労働契約は、若者の働き方の多様化に適合する契約形態であって、労働者側からの申し出によって労働契約の期間を短期限定するという場合があります。
 ④ 有期労働契約は、特に若年労働者の間の能力差の拡大傾向を直視すると、企業としては迂闊に期間の定めのない労働契約を結ぶことが出来ません。そのため、有期労働契約で対応せざるを得ないという場合があります。        
 ⑤ 有期労働契約は、特に有害危険業務のみに従事する労働者の受傷や疾病を防止するため、労働期間を限定する必要があって行われているという場合があります。
 ⑥ 有期労働契約は、急な受注の増加など臨時に必要な業務を行うために締結される場合があります。
 ⑦ 有期労働契約は、季節的な業務の増加を考慮して、多忙時のみに労働してもらうために締結される場合があります。
 ⑧ 有期労働契約は、災害の復旧などの応急な業務を行うために、締結される場合があります。
 ⑨ 有期労働契約は、景気変動の効果が企業にとって予測不能な困難時に、期間の定めのない労働契約を締結することが躊躇されるときに、締結される場合があります。
 ⑩ 有期労働契約は、山魚村での町おこし事業を営む会社が、経営状況を考えつつ地域婦人に職を与える手段として締結される場合がある。 
⑪ 有期労働契約は、リストラを経験した会社が、正社員数を抑制しその定員を厳しく管理することとしている関係上、正社員としない労働者と締結する場合がある。
 ⑫ 有期労働契約は、請負会社が請け負った仕事の完成までの間、必要となる労働者と締結する場合がある。
 以上、有期労働契約は、一様でない様々な必要に応じて締結されているのであって、有期労働契約なる括りをもってすべてをかたることはできない。有期労働契約の最もポピュラーな問題は、有期労働契約の何回かの更新の後に、有期労働契約が期間の定めなき労働契約に転化することがあるかという問題であった。そして、教科書を見ると、これは肯定されていろよね。
 学生時代になぜ肯定できるのかを考えてもよく判らなかった。有期労働契約ならば、期間の満了とともに労働関係継続の法的根拠ななくなってしまうはずである。何回契約を締結しようが、この理に変わりは無いはずである。しかし、いい加減な雇用契約管理か、雇用管理不存在かの会社があって、更新しなければならないのに、しないで放置し、賃金も支払い続け、労働者も何も言わずに働いているような場合には、黙示の意思表示による更新がなされたと理解しても差し支えないのではないかという自説を述べたら、教員にはえらく不評だったな。当時言いたかったのは、有期労働契約が期間の定めのない労働契約へと質的にジャンプしてしまうことを可能にする理屈を何ら用意することもなくそんなことを言うのは無定見じゃないのかということだった。
 学者や裁判官が期間の定めのない労働契約に「転化」すると言ったのは、ワイマール時代のドイツ労働法学の受け売りなことくらいは、読書好きの学生だったら知っていたことなんだよ。偉大なジンツハイマー達の時代は、契約法と保護法とが無分別に論じられていた時代であったんだが、「転化」を可能ならしめる理屈は「搾取する資本家への対抗」だったんだよ。しかし、これはどう考えたって法的な理屈とは言えないな。日本の判例にしても、学説にしても「納得」と膝を叩いたことなんて一度もないの。おかしいなと思いつつ、「こうなっているのさ」と説明してるんだ。これは、判例による規制であると言ってよいでしょう。