錚吾労働法

一四一回 有期労働契約を規制すべきか③
 有期労働契約を「入口規制」すべきであるという意見がある。「有期労働契約の入口規制」という言葉は、そこの君、新聞によく出てきたから知ってるでしょ。「何!知らんとな。ウーン、ムニャムニャ」。「有期労働契約の入口規制」というのはだね、有期労働契約の締結機会を限定してしまおうという考え方なんだな。このような考え方をする人達の頭の中には、「悪い有期労働契約」と「やむを得ない有期労働契約」あるいは「合理的な理由のない有期労働契約」と「合理的な理由のある有期労働契約」が分別されているようなんだ。「悪い有期労働契約」または「合理的な理由のない有期労働契約」を労働契約法の領域から追放して、「やむを得ない有期労働契約」または「合理的な理由のある労働契約」を残そうという試みだといってもよい。「やむを得ない」と「合理的な理由のある」というのとでは、随分違うが、いずれにしたって「労働契約は、期間の定めのないものが原則だ」という頭であることは明らかだと言えるな。
 「期間の定めのないのが原則だ」という考え方は、もしそれを法原則にまで高めようと言うのであれば、画期的なこと(褒めてるんじゃないよ)だろうな。こういう画期的な考え方から言うと、有期労働契約は、例外的に「やむを得ない」か「合理的な理由のある」ときにしか認めるべきではないということになるから、「入口規制」論は、有期労働契約の許容を限定することになる。「有期労働契約」者を多用している大学も、この議論の動向に無関心であってはいけない。常勤を補充しないで非常勤講師を多用している大学もあれば、常勤者を守るとの圧力によって非常勤講師を一挙にゼロ化した大学もあるが、この場合の「合理性」とは何だろうね。個別に判断しなきゃどうしようもないのじゃないかな。ダメだとか、良いだとか一刀両断にできるわけじゃないだろうよ。「経営が苦しい」ときには、こんなことが起こるのさ。いづれにしても、雇用の減少、コストの削減を図ってのことなんだよ。「この場合は、入口規制するとこうなる」と言ってくれないと、議論が世の中に伝わらないんじゃないかな。
 「お前の言うのは冷や水ばっかしで、おちょくっているんじゃないのか」と言われかねないので、「入口規制」について真面目に考えてみよう。「入口規制」をするとしたときに、誰が規制を監視するのかということを考えておかないといけない。基準監督官の監督対象なんてことは、金輪際考えてはいけない。有期労働契約で雇用した労働者が、自分には有期労働契約とされる理由が無いんじゃないかと言うケースが続出すると思うが、理由がないから正規雇用者として扱えという法的強制まで考えているんだろうか。そんなことは出来っこないというのが常識というものだろう。しかし、理由が無いので正規雇用せいといって合同労組が団交を申し入れる場合は、急増するだろうな。労働委員会の悪戦苦闘が、もう目に見えますな。