錚吾労働法

一四六回 労働者派遣問題③
 派遣会社が労働者を雇用すると言っても、ここには落とし穴がある。派遣会社に、派遣労働者を常時労働者として雇用し続ける意思があるのかどうか。また、雇用された派遣労働者に、派遣業者に雇用され続けたいという意思があるのかどうか。大いに疑問だと言うべきではないのかな。労働者派遣法は、労働者派遣業者を「特定労働者派遣事業」(以下特定事業)と「一般労働者派遣事業」(以下一般事業)とを区別してます。「特定事業」とは、「派遣労働者(業として行われる労働者派遣の対象となるものに限る)が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業をいう」。「一般事業」は「特定事業以外の労働者派遣事業」です(派遣法2条)。
 特定事業は、常時雇用の労働者をその使用者たる派遣業者が派遣するのです。労基法の「中間搾取の排除」(6条)は、「業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」としているよね。労基法6条の禁止は、職業紹介を収益事業とすることを禁止するものだから、特定事業とは関係がないんだよ。ややこしい話になってきたけど判るよな。貧しい労働者からピンはねすれば、その労働者は働いても生活は楽にならない。ピンはねする奴らが何人からもピンはねして左うちわなんてのは、社会悪の代表みたいなものだろ。だから、職業紹介は、無料が原則で、有料職業紹介業者の徴収することの出来る手数料は、厳しく制限されているんだよ(職安法32条の3を読みなさい)。
 職安法44条は、労働者供給事業を禁止している。労働者供給事業と特定事業を、ちゃんと区別してみなよ。供給業者が供給する労働者を他人の指揮命令に服させて働かせるという点では、労働者派遣に似ている。しかしだね、同じじゃないんだ。違う点は、供給業者は労働者を雇用していないことさ。刺青のあんちゃんが、「そこの兄ちゃん車に乗れよ。仕事あるよ」なんてやってるだろ。そんなことは、違法だからやってもらっちゃ困るんだが、あんちゃんが兄ちゃんを雇用するわけないだろ。
 こんな風に見てみると、特定事業は、良く考えて労基法や職安法に引っかからないようにした事業だということが判るよな。「雇用」しちゃえば、派遣して(供給して)もオッケイだというわけだ。産業界から何とかせいと言われてやったことだと思うが、下降状態の産業界を下支えし、雇用調整弁としても有益なものとして、歓迎されたんだよ。しかし、やってみて判ったことは、「俺たちは非正規労働者として社会的に差別されてんじゃねえのか」という意識を育んでしまったということさ。このことによって、これまでとは異なる労働組合、これまでとは異なる労使関係が、形成される可能性があるだろう。労働局、労働委員会、裁判所は、この変化の兆しを見落としてはならないだろうよ。
 特定事業者といっても、事業者の雇用する管理・事務職員については、雇用意識は鮮明だと思うが、派遣労働者に対する雇用意識は紙に記載した表現からはわからないが、やや不鮮明なことがあろう。派遣先の仕事の有無に従って雇用の有無も決まってしまうような実態は、好ましいことではない。「雇用」は、キーワードだったのではなかったのかな。