錚吾労働法

一四七回 労働者派遣問題④
 前回で述べたことだが、常時雇用することによって労働者派遣業を解禁する道を開拓したんだった。労働者を物と同様にこっちからあっちへ周旋して稼ぐ輩とは違うからいいんだという理屈だったんだね。特定事業者が派遣する労働者は「常時雇用する労働者のみ」とされているね。派遣法の制定当時においては、CADやプログラミングなどの当時の特殊技能者の派遣の需要が多くあり、また特殊技能者の数も限られていたことを考慮しての表現であったと思うよ。派遣需要のある企業は、このような労働者を直接雇用することによって生ずるであろう賃金体系のゆがみを心配していたから、期間限定的に特殊技能者を送り込んでもらうことを望んだ。派遣事業者に雇用される派遣労働者は、その当時は、高賃金で処遇されたんだよ。派遣事業者は、派遣労働者に高賃金を支払ってもなお利益を得て、急成長することができた。派遣業の中には、派遣法の制定以前から便利屋的な会社として存在して大企業にまでなったところがあったんだ。派遣法は、そのような企業の肩身の狭さを取り除いたわけだ。
 他方、特定事業者でない一般事業者が派遣する労働者は、「常時雇用する労働者のみ」からなっていない。事業者が常時雇用する労働者とそうでない労働者とが混在しているんだね。派遣期間だけの雇用が、想定されてんだね。こういう形態の派遣業を法認した理由は、労働市場規制緩和による小規模派遣業の解禁であった。一人会社による派遣業を考えてごらんよ。ちょっとした事務所を構えれば、許可が必要だと言っても、簡単に起業できちゃうだろ。いわゆる「隙間産業」の典型なのさ。コストをそんなにかけなくても起業できる、新産業だったんだね。そうすると、じゃあ俺もやってみるかなんて輩が出てきて、使用者意識が希薄なままに仕事を始めちゃうんだな。派遣先で受傷して働けないから解雇なんてのを、平気でやってしまうんだよ。派遣先企業は、労災に関しては使用者として扱われることになっているのに、頬かむりしちゃうし、派遣元は得意先の派遣先に責任取ってくれとはよう言わない。こんなことが、いたるところで起こっているんじゃないのか。こうなると、まるで無法地帯だよ。情けない。よく言われてるんだが、労災隠しの温床となっている可能性がある。労働行政による監視、指導、摘発の強化が望ましいんじゃないかな。
 派遣労働者の社会的な立ち位置は、派遣労働者によって満足されていない。労働者派遣業が隆盛になればなるほど、紛争多発の業界になる可能性がある。東電への労働者派遣業者の不良な管理は、原子炉事故現場で働いた者の住所や行方すら不明だというんだから、まともじゃあない。これは、氷山の一角ですよ。徹底的に管理できないのであれば、派遣先業界によっては、派遣業の許可を取り消してもよいのではないか。