錚吾労働法

一四九回 労働者派遣問題⑥
 労働者派遣という新手の事業が登場して、雇用と請負の区別が曖昧になってしまった。派遣法2条3号の「労働者派遣を業として行う」事業者であるかどうかを厳密に判断するためには、どのような指標に着眼したらよいのだろうか。この問題をないがしろにすると、派遣と請負とを区別するのが厄介なことになるんだよ。請負業者が派遣業しちゃあいけないなんてことは無い。会社の定款に「当社の事業」として、派遣も請負も書いてあるのは最近じゃあちっとも珍しくないんだよ。そうすると、「お宅は、労働者をどっちで働かせてるの」ということになるな。
 請負業は、請負契約で約した仕事に関して、その遂行のための資金、原材料、設備、機械、機器その他の資材を自分の責任で調達する業であり、その企画力、専門知識、技術、経験によって仕事を完成させる業であって、民事法(民法、消費者法、商法など)によって課されている責任(担保責任など)を負うべき主体なのさ。判るかな。わたしだって、たまには法律家らしく説明するんだよ。契約の相手方に対する請負業者の独立性に特色があるんだな。注文主は、労働時間、労働の評価・査定、業務遂行に対する指示・指揮について何らの権限も行使できない。「代金を支払うんだから口出ししてもいいんじゃないのか」。そんなことを言ってるのは、法学部の学生とは言えないぞ。
 大工の棟梁に会うと、気品があるだろ。請負職人の典型だからな。土建屋の大将も、「ゴチャゴチャいうな。オイラにまかせよ」という迫力があるだろ。独立人の気品と迫力だな。派遣労働は、こういうものではないんだ。契約は請負の形式であっても、上に述べた請負業たるに足る指標から外れているようでは、派遣と判断されても仕方ないんじゃないかな。じゃあ、派遣といえるんじゃないかという指標はあるんですかだって?勿論あるんだよ。派遣労働者は雇用されるんだろ。だからな、これは雇用だという指標があれば派遣だと言えるんじゃないのかな。そうだろ。
 以上述べたこととの関連で、最近よく語られているのが「偽装請負」なんだな。偽装請負というと言葉だけでは理解出来ない。偽装請負というのは、請負契約を仮装して派遣するというやりくちのことを言ってるわけ。なんでこんな手の込んだことをすると思うかな。そこのオリンピックへ行くフェンサーよ、答えてくれよ。請負だと都合が悪いときに派遣だといい、派遣だと都合が悪い時に請負だと言い逃れるためだ、と言いたいのか。なるほど、やっぱりフェンサーだけあって鋭く突いてくるな。答えの後半が、正解だよ。法網をかいくぐってなんて言うだろ。それさ。派遣法の規定に違反することを免れるため故意に偽装するということなんだな。無許可派遣や欠格者による派遣の場合を考えてみなよ。派遣しちゃあいけないよな。それで、派遣業じゃない、請負業だというわけ。確か昭和61年に、派遣と請負を見分けるための労働省告示が出されてたんじゃないかな。調べてちょうだい。
 東電原発に行かされた労働者は、請け負って行ったいったのかな、派遣されて行ったのかな。どっちだろうか。これをレポート課題にしとくから、来週までに提出してくれ(ウェーという叫び声)。