錚吾労働法

一五〇回 労働者派遣問題⑦
 労働者派遣業者は、常時雇用するかどうかは別として、労働者の雇用主、つまり使用者というわけだ。使用者たる派遣業者は、派遣元事業者として派遣先事業者との間で「当事者の一方が相手方に対し労働者を派遣することを約する労働者派遣契約」を締結することになる。この労働者派遣契約は、派遣先事業者にとっても、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主からは労働者の派遣を受けられなくなるので、慎重に扱われるべきものなんだよ。こんな禁止(派遣法のどこに禁止規定があるか、確認してちょうだい)があるなんておかしいじゃないか、と言う声をよく聞くんだが、この声は正しいのかな。
 最近は格差社会反対デモが、あちこちで発生してるよな。日本では、労働者派遣法が制定された頃から、猛烈な格差社会の到来を警告する者がいたんだよ。Ichも、日本を破滅に導く導火線などと言って講義してきたんだよ。発案者もそんなことは「百も承知の助」だったから、派遣業者を競わせて派遣料金を下押しするような派遣先事業者の出現を阻止しようとしたんだな。それが、禁止の意味なんだよ。しかし、罰則なしの禁止じゃあ訓示規定(念のために言っておくか)のようなもので、効き目は無かったようだよ。無策な20数年、失われた20数年だったな。わが妹がわたしの子供をひっ捕まえて「あなた達は猛烈な格差社会で生きて行かなくちゃいけないのよ。ちゃんとしなきゃダメよ」なんてお説教してたのを思い出すなあ。
 ここで問題を出しておこう。A社がリストラの一環として、営業部を廃止するとともに主な営業部員を独立業者に仕立て上げた。その結果、B社などの派遣営業会社が誕生したが、A社はB社に営業要員の派遣を依頼した。B社は営業要員を雇用し、派遣契約で約定した人員を派遣した。派遣先の業務指揮者は、派遣労働者にノルマを設定するなどした。そのため、労働者が派遣元に何とかしてくれといっている。この場合、労働者の使用者は、B社ですか、それともA社ですか。ちゃんと考えてくれよ。営業活動だから営業成績の評価をしなくちゃならんだろ。評価権は、どっちにあるんでしょうかねえ。労働組合が結成されたとして、団体交渉の相手方になるのはどっちかな。パワハラがあったとすると、どっちが責任とるんですか。派遣契約の期間が終わってしまったら、これらの問題はどうなるんでしょうね。どうだ、面白いじゃないか。