錚吾労働法

一五二回 労働者派遣問題⑨
 一人でも労働者を雇用すれば、使用者は使用者としての責任を負うことになります。労働者派遣先による指揮命令の事実があるからといって、それだけでは、派遣元(使用者)以外にも雇用契約上の使用者(派遣先)が存在するとはいえないんだよ。最近は、派遣先の使用者性が主張される事例が増加しつつある。その原因は、派遣先労働者と渾然一体となって労働し、共通の指揮命令を受けているという派遣労働者の労働実態が存在するからである。作業着、安全靴、ヘルメットも同じものを着用していれば、区別がつかないだろう。だからと言って、派遣先事業者と派遣労働者との間に雇用契約関係が成立することにはならないだろうよ。派遣先事業者は、出来るだけ派遣労働者を正規こようするよう心がけてほしいが、それとこれとは別個の問題だろう。
 使用者は使用者としての責任を負う者だから、使用者が誰なのかは明確でなくちゃならない。派遣労働者の使用者は、派遣労働者を雇用している者だね。これは、明確なことだ。しかし、労働者派遣業を法律改正、法律制定までして法認する以上、派遣業への胡散臭さ、つまり使用者としての責任主体性への疑問を手当しておかなければいけなかった。そのために、みなし使用者規定が置かれているのさ。派遣元事業者に労基法や労安衛法に定められている責任を十分に履行する能力があればそれによるべきであるが、必ずしも充分な能力があるとも言えなさそうであり、また就労実態からして派遣先事業者を責任主体ではないとすることも適当でないので、派遣法44条、45条、46条などのみなし使用者規定が置かれているんだね。派遣法44条以下の規定は、日本語としては落第だよ。派遣業者や派遣労働者が読んで判る書き方をしないとダメだな。派遣先事業者は、例えば労基法32条以下の労働時間の定めをみなし使用者として順守しなくちゃならないが、労基法のこの規定も日本語としては落第だよ。保護法なのに、保護される者が読んで判らんなんてことがあっていいはずはないんだよ。ひとまとめにして書こうなんて横着をするから、こういうことになっちゃうんだよ。
 派遣労働者に残業してもらいたいときに、労基法36条の協定を結ぶ必要がある。協定が、派遣先事業者と派遣労働者過半数代表者または過半数を組織する労働組合との間で締結されている場合があろう。この場合は、派遣先事業者が、派遣元から委託された指揮命令権を行使して残業を命ずる事が出来るであろう。派遣先の事業者が、派遣労働者過半数を代表する者との協定を締結して、残業を命じたとしよう。その場合に、派遣先の労働者と派遣労働者とが一緒になって働いているのだから、過半数の計算はその双方の合計人数を基礎として行うべきだという意見が出ないわけがないよな。そうすべきなんだろうな。そうするとだな、協定を締結した事業者がどの事業者かによって、過半数の計算の基礎が異なることになるんだよ。こういうことはどこにも書いてないけど、面白いだろ。勉強してちょうだいね。