錚吾労働法

一五一回 労働者派遣問題⑧
 偽装請負なる新たな問題が、存在すると言われています。この問題に関してはこれまでにも少々触れたんだった。この場合の偽装なる概念は、昭和61年の労働省告示にその根拠があるんだったな。記憶してるかな。偽装というのは、世の中の言葉の意味からすると、本性を隠したり、偽ったりすることでしょ。隠したり、偽ったりしても、誰も騙されないようなのは、偽装などとは言わないわな。昔は偽学生が結構いたが、別に悪いこともせず、向学心から○○大学の学生なのに、××大学の講義を聴いていたな。大学としては授業料も払わずに何だということだったが、ガタガタ言うんじゃないと言えば、それで何ともなかった。こういう懐かしい思い出として残るようなものならば、偽装などとおどろおどろしく言いはしないだろう。だから、偽装請負などと大声で言われると、よっぽどけしからないことが行われているんだろうと、推測せざるを得なくなるな。そうだろ?
 偽装請負で特に問題となるのは、建築・土木などの業種だろう。これらの業種には、派遣してはいけません。派遣禁止業種だ(派遣法の何条に書いてあるかを確認しときな)。にもかかわらず派遣すれば、処罰(1年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金)されることになる。請負ってすれば何の問題もないので、あえて派遣する実益はそんざいしないね。よっぽどけしからんことが行われているんじゃないかと推測してもだよ、あんまり意味ないように思うけどな。偽装結婚、偽装離婚、偽装解散、偽装倒産等など、偽装という冠を付けられる場合は、はかばかしくないことばかりだな。                                            そこで、君らに質問するぞ。民法偽装結婚した者は・・・と、書いてありますか。会社法に会社解散を偽装した場合・・・と、書いてありますかな。何書いてないって。そうか。婚姻の実態がなく、婚姻の意思もないのに、婚姻届出す輩がいるとしよう。この場合どういうことになるか、民法の先生に聞いてみな。会社法のことは、会社法の先生に聞きな。例の告示とその意味については、もう知ってるな。しかし、ここで考えてもみなよ。法には、全体的な調和なり、用語の慎重使用という重要な要請が働いているのさ。ところが、あの告示は、唐突に偽装という言葉を使っちゃったんだな。我々から見ると、オイオイってな感じだよ。そんな言葉は、世間言葉で、法律用語じゃなかろうが。法律の専門家でなくてもよろしい労働委員会の公益委員たちが偽装解散の不当労働行為と言っても、それは構わない。法的に請負なのか派遣なのかを区分する必要があるときに、偽装なんていう判定者に予断を抱かしめるに違いない言葉を告示に書いてしまった者がいたという事実が、官僚たちの質的な低下を示しているんじゃないのかね。
 労働現場に態と混乱を起こすようなことをしてはいけないな。こんなことを不用意に書くと、お前んとこは偽装してんだろなんて言って混乱を引き起こすことになる。これは、まずいんじゃないかな。派遣業界に酷い奴がいるという話とこの問題は直接に結び付くものじゃないわな。請負と派遣を冷静に区別すればいいだけの話なんだよ。だからだね、偽装請負なんてのは成り立たない話じゃないかと思うのさ。