錚吾労働法

一五三回 労働者派遣問題⑩
 派遣法2条6号に「紹介予定派遣」て書いてあるな。このことからどんなことが分かるかな。派遣業者は、有料職業紹介業を同時に営んでいることが多いってことだよね。職業紹介に対する厳しい法規制の時代を知っている者にとっては、ここまで規制緩和しちゃったかと感慨深いものがあるなあ。この頃の図書館司書は、昭和35年六法全書見たいって言うと、びっくりして「そんな古ものは保存してません」と言うよな。こんなふうじゃ、職安法の今と昔を調べろと学生に言うことも出来んわ。情けない話よ。規制緩和なんて言ったって、だから、今の学生にはチンプンカンプンよ。職業安定局の国の事実上の独占事業だった無料職業紹介事業の領域を民間の有料職業紹介事業者に開放することによって、就職をスムースに実現できると考えてのことだったんだよ。これに関連して「リクルート事件」(政治家や官僚へのリクルート社の公開直前の未公開株の譲渡という汚職事件)が発生して、大騒ぎだったな。この事件がどういう事件だったか、よく調べてごらんよ。調べれば、民間職業紹介事業者にとってなぜ職安法の規制が邪魔だったかよく分かるよ。
 紹介予定派遣は、分かりやすい言葉で表現すると「お見合い派遣」とでも言うのかな。派遣と紹介の合体した形だということなのさ。特定または一般の派遣業者(派遣元)が有料紹介事業者でもあるときに、派遣先事業者に労働者派遣するのだが、労働者と派遣先事業者が派遣労働の開始後または派遣労働の終了後に雇用契約を結ぶことを予定しているんだよ。10万人以上の学生の就職が未定であると、紹介予定派遣が注目されるようになるかもしれないよ。しかしだ、見合いしても婚約に至らないことが多いのと同じで、派遣されて、働きぶりを観察されて、この労働者と労働契約を締結したいという具合になる確率は、決して高くない。学生が大学在籍中に就職のためのインターンをした会社にめでたく就職なんて例は、稀なんだぜ。これと対比したって、あまり期待できないんじゃないのか。おつむを鍛えてない学生じゃあ、会社は採用してくれないから、ちゃんと勉強してね。                  いわゆるヘッドハンティングを、この形で行う会社はあるよ。
 「この人物は、いたって健康かつ優秀だから、どうです、採用してみたら」。
 「あんたはそんなこと言うけれども、この前の大人物は、勤務時間中に新聞と漫画しか読んでばかりだった。あん
たの紹介じゃあな」。
 「数学、物理は天才級らしいけど、ちょっと風変わりらしいんだ。その位がいいと思うよ」。
 「そんなにいい人なら、ちょっと様子を見たいな」。
 「じゃあ、2カ月の派遣と言うことで、その間にじっくり観察したらどうだ」。
 実際はこまごまとした話をつめるんだがね、これ実話なのさ。製薬技術者でコンピューター解析専門家なんだな。ヘッドハンティングは、まあこんなことなのさ。この人物、超優秀らしいよ。船漕いでいることもあるらしいが、会社は喜んでるんだから、目出度し目出度しだよ。