錚吾労働法

一五四回 労働者派遣問題⑪
 派遣労働者の派遣先での仕事が特定されていて派遣先労働者がそれには従事しない場合と派遣労働者が派遣先労働者と渾然一体となって働いている場合とが、区別されるべきであろう。前者は、派遣先での仕事が派遣労働者にのみ割り振られている場合である。この区別は、労働条件の平等・均等を考える際の一応の区別である。仕事というものは、同じように見えても労働者によってその位置づけが異なるし、使用者の目から見ても個々の労働者によって期待度が異なる。労働者による労働の位置づけというのはだよ、労働者にとって好ましいかどうか、気に入った仕事かどうかということで、また使用者の労働者に対する期待度というのは、これだけはやってほしいとか、ここまでやってほしいというようなことであり、特に資格を必要とするようなよう仕事や、個性を重視する仕事の場合には期待度は高いと言えるんじゃないかな。
 このことを押さえておかないことには、労働の評価は、難しいと思うよ。下手な評価は、労働関係の波乱要因になるだけでござんしょう。なぜこんなことを言うかというと、労働条件の平等とか均等とかの形式的な意義は、誰でも分かる話なんだけど、実質的な意義の実現は大変難しいと言いたいからなんだよ。分かるかな。つまり、同じ仕事をしているように見えるだけでは、同じだと断定しちゃあまずいんじゃないかな。他方、評価する者にとっては、労働者間の相違を正確に認識し、その間の幾らの賃金差をつけるべきかという困難な仕事をこなさなくちゃならんということになる。これを正確無比に労働者の個々人について行うのは、不可能じゃないかな。それにエコひいきじゃないが、評価に主観的な判断が入ってくるのを避けがたいんだよ。
 最初の場合には、派遣労働者のみで特定の業務について労働しているから、派遣先労働者との比較の問題は生じない。ここで特定された仕事が単一であるならば、全員が同じ仕事をしていることになるね。そして殆ど全員の作業量がさほどに違わないのであれば、賃金差を設けることも難しい。例えば、タイルのシート貼りのような単純作業では、シート何枚にタイルを張ったかで賃金が決まる。シート1枚幾らという出来高払い賃金においては、男女差や年齢差を設ける根拠が無いでしょ。他方、派遣労働者と派遣先労働者とが混然一体化していて、派遣先労働者は枚数給と時間給との混合形態の賃金で働いている場合を想定してごらんよ。そうすると、派遣労働者と派遣先労働者とでは、賃金額の相違が生ずることになるでしょ。
 このような場合には、多分紛争が生ずるでしょうね。派遣先の労働者と同じ賃金をと主張されても、不思議じゃないだろ。女性は枚数プラス時間給なのに、男性は時間給のみで高めに設定してあるというような要素が入ってくると、紛争はもっと複雑になっちゃうな。こんなバカなことをするから、理解の域を超えてるなんて言われちゃうんだよ。何でこんな設例を述べてるか判るかな。平等・均等問題を考えて欲しいからだよ。不満のある派遣労働者、特に女性派遣労働者は、派遣会社に平等・均等にしてくれというようになるだろう。
 TPP交渉を首相が決断したので、この問題は後回しにするよ。