錚吾労働法

一五五回 TPPと労働問題①
 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加については、連日マスコミで賛否両論が報道されてたよな。だがじゃよ、農協や医師会が反対と言い経団連や商工会が賛成というので、国民の中には、TPPは主として農業問題だと思ってる人が少なくないと思うな。決してそんな狭い範囲のことを交渉しようとしてるんじゃなくてさ、まあ生活や産業に関することばかりじゃなくて芸術や教育に関することなどの国境を超える取引や移動をスムースに行うことが出来るようにしようというのさ。アメリカ通商代表部(USTR)は、日本のTPP交渉参加についてアメリカの政府と議会との協議に時間がかかるので、交渉への受け入れが困難になるやもしれないと意見を表明していた。このため、日本政府は交渉参加決定を決断したのでしょうな。
 交渉21分野の中には、労働が入っているんだよ。その他の分野も、労働と無関係じゃない。企業が海外へ出て行ってしまってるだろ。逆に入っても来るでしょ。TPP反対であっても、非関税障壁の解消にもっと積極的に取り組めば、それが多すぎて嫌気が嵩じて出て行った外国企業も再び帰ってくるようになるかもしれない。反対派は、どうして非関税障壁解消の努力をしなかったのかな。日本企業も外国企業も出て行ってしまう現状にも、手を打たなきゃ駄目だ。間の抜けた反対だから、森林野買われちゃってんだろ。TPP交渉参加賛成反対の以前に、土地も開放するのかちゃんと決めておかないとな。某裁判官がどうしてあんたはEU/EC法を熱心に研究しているのかと尋ねるので、環太平洋経済圏構想が具体化するときに備えるためですよと答えたら、「フーン」と言ってました。10年以上も前の話です。
 物が動けば、人も動く。金が動けば、人も動く。サービスが動けば、人も動く。人が動けば、また人が動く。自由な移動(フリー・ムーブメント)とは、こういうことを言うのです。貿易立国で行く国は、フリー・ムーブメントを主張しますが、相手のフリー・ムーブメントをなかなか理解しようとしない。パートナーシップと言う以上は、そんなふうじゃいけないということになるんだよ。農産物や医薬品が入ってくるとばかり騒いでいていいのかな。もっと輸出することができるかもしれないし、生産現場が刺激されて雇用が増加するかもしれない。ASEANの盟主たらんと欲している中国は、典型的な輸出型経済を運営しており、通貨政策は固定的であるから、TPP交渉に加わるとは考えられない。日本の交渉参加反対派の中には、中国関係重視の立場の人々が多いんだ。
 アメリカは、日本との間で数々の貿易交渉を行ってきたが、二国間FTA自由貿易協定)すら締結できなかった。USTRの懸念との関係では、交渉参加決定はギリギリのタイミングだった。対米限定国債アメリカから借金して東北にアメリカの土木業者を投入すりゃいいのになんて考えているのは、多分このわたくしくらいかな。アメリカの土木会社(日本の土木会社)が日本(アメリカ)で仕事が出来るようになっとれば、こんなことは考えなくてもいい。瀬戸内海の巨大橋について「わしらにも仕事させろ」と言ってアメリカが騒いだことを覚えてるかい。理科大の土木の先生が、アメリカの土木技術は下の下ですぐに壊れちゃうから、入れちゃいかんなんて言ってたよ。当時の政府の本意は、資金(税金)の国外流出を防止せにゃいかんということだったから、日本が上の上でアメリカが下の下だという理由ではなかった。そんなに心配なら土木機器の日本国内調達をアメリカに飲ませればいいじゃないかなんて意見は、歯牙にもかけられなかったんだよ。古い話だけど、フォード横浜工場は、陸軍の猛反対(軍用車国産政策)で着工直前にポシャッタことがあった。日米自動車交渉のときに、アメリカはこんな古いことまで持ちだして「おかしいじゃないの」と言ってたでしょ。
 戦後一貫して保護主義の通商政策をし、成果を上げてきた日本は、通商問題を多国間通商問題として位置付けることが出来なかった。多国間通商主義を当たり前だということにしなけらば、いけない。これからの若者は海外で働く意欲を持つべきだと言ってる人が、日本に外国人労働者が増えては困るなんてことも言ってるでしょう。出入国管理法制を見れば、来て欲しくないという底意が透けて見えるでしょう。週20時間しか働いたらいかんなんて言われたら、留学生は違法な闇労働しなくちゃならなくなる。東大が留学生がどんどん減ってしまって残念だなんて言ってるけれどもだね、減って当たり前なの。増やす法政策が欠落してんだから。留学生ビジネスでは、どうしようもなく出遅れてますよ。