錚吾労働法

一五七回 TPPと労働問題③
 看護師として研修した女性達への日本での看護師資格の付与のための試験の評判がよろしくない。外国が承認した職業資格を日本では認めないのが、これまでの日本の立場なんだよ。神戸地震のときでも、外国の医師は診察まかりならんだったし、ドイツの特殊車両は排ガス規制に合格してないという理由で空港から神戸に行けなかった。なんでこんなことから話はじめるかというと、職業資格や工業規格がばらばらな状態では、環太平洋規模の自由な、保護主義を廃した市場を作り上げるのは、難しいということなんだ。アメ車の人気はあるんだが、買って後悔なんて話をよく聞くんだね。ビッグスリーは日本で工場を作って日本製の部品も使って製造すれば、後悔の最大原因たる故障を劇的に減少させることができる。新工場は、雇用を創出し、アメリカ人労働者の日本への移動を促進するだろう。看護師資格などの職業資格は、日本でも通用する職業資格として承認する代わりに、日本のものも承認してもらうという資格相互承認制度を創設すべきである。医師、弁護士、会計士、弁理士、薬剤師、栄養士などの資格をどの程度相互承認することができるか。通商紛争や政府訴追などの紛争処理を円滑に進めるためには、弁護士資格の相互承認や法定通訳士の創設などの環境整備をすべきじゃないかな。知的職業に従事する者は、使用者であったり、労働者であったり、共同事業者であったりするけれども、労使実態に即して労働者性、使用者性を決めることのなるんだよ。
 労働者の域内自由移動も、TPPの交渉課題となるだろう。外国の良き労働者にどんどん来てもらい、日本の労働者に外国に行ってもらうためには、(官民年金統合を実現して)年金財源の高度化と年金ポータビリティ―制度を考慮すべきでしょうよ。改善された外国人労働者研修実習制度は、実質的には殆ど限界企業への中国労働者の国際派遣と化しています。人の移動は、こんな形で拡大されては困る。ジャトウやマフィアのからむような労働者派遣は、しても、なされてもアウトの原則を確立しておかないといけない(中国がTPP交渉参加のための協議開始に不快感を表わしているのは、これとは別の日米基軸経済圏がTPPどころかAPECASEANにテントを建てる変動のきっかけとなるからであろう)。
 学生、研究者の域内移動を活発化する方策についても、一考をようするんじゃないかな。来るのを待つのではなく、率先して行くという姿勢を若者に持ってもらったり、ライフサイエンス、医療、通信などの分野の専門家達のモビリティーを格段に向上させるべきでしょう。優秀なドクターに国境は邪魔であろうし、編成されたドクターと看護師のチームの平時の移動を促す国際的な組織作りもまた課題となりんだろうな。10
年後のTPP協定の本格運用に際しては、労働分野はその他の分野の一層の具体化に伴って、詳細になるに違ないのだ。
 農業に関しては、日本の農業労働者の技量が世界最高水準にあることを自覚すべきじゃないのかな。万歳さんは大変なご立腹ですが、農業の高度技術化と海外展開の絶好のチャンスを逃したら後悔しますよ。農協や農林中金は、農業の海外展開を考えてもらいたい。アメリカに広大な農地を構えて大豆、小麦、モロコシ、馬鈴薯などの栽培に乗り出せば、アメリカ人に雇用のチャンスを展開することができるし、日本の農業技術者の移動を促すこともできるだろうし、バイオ技術と組み合わせれば、アルコール製造などのバイオマス産業を育成することもできる。水の貯蔵庫たる東南アジアの湿土地帯に造水産業を展開すれば、地域に安全かつ品質の良い水を提供することができる。浄水プラントを展開すれば、ちいきの雇用問題を改善し、戦略的な輸出品とすることもできるでしょう。水産業は今世紀最大の産業となるので、岐阜県の実業家たちは県などと協力して、国内最大の浄水プラントを造成し、世界中に大量の水を提供できなければいけないんじゃないかな。
 河口から先でゴチャゴチャやってるだけでは、いけない。名古屋市長らのことはほっておいて、藤橋の水資源の世界戦略に思いをいたすのが岐阜の経済人・政治家でないと。TPPは、いろいろと考えざるを得ない状況へと我々をいざなっているから、それに相応しい考え方をしなければいかないんじゃないにかな。国も、公社をTPP仕様に作り直してくれないとね。
 政府は、役人馬鹿論に浸っているようじゃあダメだ。そんなことでは、役人の能力を活用することができないし、役人を新たな状況や変化に柔軟に対応するように鍛えることもできなくなる。しっかり交渉して欲しいし、TPPを見据えた国内整備を進めてほしい。